【高校野球】選抜90回記念大会、アマ球界の名将が解説 “負けないチーム”が“勝ちにいった”

沖縄・興南高校、京都大学などで監督を務めた比屋根吉信氏

比屋根氏は沖縄・興南高、京都大学などで監督を務める

 球春到来。第90回選抜高校野球大会が23日、甲子園で開幕した。記念大会となった今大会は過去最多タイの36校が参加。注目の開幕戦は聖光学院(福島)が東筑(福岡)を5-3で下し初戦を突破した。今大会を通じて、「Full-Count」では沖縄・興南高校で春夏通算6度、京都大学などで監督を務めた比屋根吉信氏(66)を解説者として招き、勝負の明暗を分けたポイントを聞いた。

――――――――――――――――――――――――――

 開幕戦はどれだけ試合をこなしても独特の緊張感があるものです。強打を誇る東北の王者・聖光学院と、選抜で初勝利を狙う東筑の試合。予想では「打のチーム」対「守りのチーム」という見方でしたが、結果は真逆の展開となったといえるでしょう。

 勝負を決めた9回のセフティースクイズ。結果的に2点が入りましたが、エース・石田君で守り勝つ東筑には2つのミスが出てしまった。まずは、1死からの送りバントを三塁手の悪送球で二、三塁。そしてスクイズの場面でも二塁手の悪送球です。甲子園、ましてや開幕戦という中で、お互いのチームが本来の力を発揮できなかった。「打のチーム」が相手のミスを生かし細かい野球でリードを奪い、守りのチームが勝負所のミスが響いた。そういった部分も高校野球です。

 初戦を突破した聖光学院ですが、秋のチーム打率は.389と強打のチームです。先発はエースの衞藤君ではなく背番号「11」の上石君。タイプの違う3投手の継投で勝利しましたが、本来の展開ではなかったはず。公式戦初先発となった上石君の気持ちを考えれば、選手、監督の中でも「早い段階でリードしたい」との思いがあったはずです。

 打者は初球から振っていき相手にプレッシャーをかけ、先制点を奪った。初回からゲームが動き、両チームの積極的な姿勢は素晴らしい展開でしたが、私の中では少しボール球に手を出しすぎたのかなと感じました。

第90回選抜高校野球大会初日の試合結果

強振と軽打の使い分け、柔軟性のある打撃も必要に

 強振と軽打の使い分けです。初球からフルスイングを見せた、聖光学院ですが追い込まれてからも大振りの場面が目立った。今後の試合を考えれば、柔軟性のある打撃も必要となってくるでしょう。そうすることで攻撃パターンがもっと増えてくると思います。どんなチームでも速いゴロを打てるチームは負けない。バットの面でボールを捉えることで、チャンスの要素が広がっていきます。

 一方、春初勝利を狙った東筑。昨夏の甲子園も経験した石田君は序盤こそボールが高めに浮き3失点しましたが、その後は落ち着いた投球を見せていた。想定外だったのは攻撃面。バントのミスが響いたこと。結果的に成功した部分もありましたが、失敗(ファール)が多かった。バントの基本はストライクゾーンの高めにバットを構えることですが、ボールゾーンに構える打者が多かった。そこが今後に向けた課題になってくるはずです。

 エースが抑え、ミスの少ない野球で「負けないチーム」が“勝ちにいった”というところでしょうか。しかし、東筑も夏に向けて素晴らしい経験をしたはずです。2番手の林君が甲子園のマウンドに上がれたことは非常に大きい。直球も140キロ台を計測し、石田君以外の投手が使えるメドが立たったのでは。夏に向けて非常に楽しみなチームですね。

〇比屋根吉信(ひやね・よしのぶ)

1951年9月19日、兵庫県尼崎市出身。66歳。報徳学園高から大阪体育大に進学。卒業後は西濃運輸で日本選手権にも出場。1976年に沖縄・興南高の監督に就任。仲田幸司、デニー友利ら多くのプロ野球選手を輩出。監督生活10年間で春夏通算6度、甲子園に導き1980年の選手権大会ではベスト8入りするなど同校の基盤を作った。その後は社会人野球・阿部企業、熊本・有明高の監督を務めるなど、2010年から12年までは関西学生野球リーグの京都大学の監督を務め、田中英祐(元ロッテ)を育てた。

(藤浦一都 / Kazuto Fujiura)

© 株式会社Creative2