透けて見える金正恩氏の「ホンネ」…北朝鮮の論調に微妙な変化

米国のトランプ大統領は5月までに北朝鮮の金正恩党委員長と首脳会談を行うと表明した。北朝鮮はいまだに公式に明確な反応を示していないが、国営メディアの朝鮮中央通信は20日、「米朝関係においても変化の機運が表れている」との見解を示した。

北朝鮮としては、米国の出方を注意深く見守っているのかもしれない。その一方で、南北対話、そして米朝対話に向けて北朝鮮側に有利な環境作りには余念がない。とりわけ目立つのが露骨な「日本外し」だ。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は3月11日、「日本は絶対に戦犯国の汚名をすすげない」と題した論評で、韓国で開かれた国際カンファレンスで、慰安婦が虐殺されたとするショッキングな映像が初公開されたことに言及しながら、日本を非難した。日米韓の足並みを乱す最大のチャンスが到来したというところだろう。

日本外しに焦ったのか、安倍政権は北朝鮮側に日朝首脳会談を開催したい意向を伝達したと伝えられている。しかし、前代未聞の「森友文書改ざん」問題などで厳しい政権運営を強いられている安倍政権が、安易に北朝鮮と接近しようとしても足下を見られるだけだろう。

北朝鮮が、日米韓に対して巧妙な外交戦を展開していることは間違いないが、だからといって絶対的に有利とも言えない。それは北朝鮮メディアの論調の微妙な変化からも透けて見える。

金正恩氏は韓国の文在寅大統領が送った特使団に米韓合同軍事演習の実施に対して理解を示すと表明した。それ以降、演習に反発する北朝鮮メディアの報道はすっかり止んだ。また、金正恩氏は昨年9月、トランプ氏に対して「怖じ気づいた犬がもっと吠え立てるものである」「ごろつき」「老いぼれ」などと非難する声明を発表したこともあるが、最近はトランプ氏個人に対する非難もなくなった。

米国に対する非難が完全に止まったわけではないが、目立つのが「制裁」と「人権問題」に関する言及だ。ただし、かつては「戦争行為と見なす」「対抗措置を講じる」などと制裁に対して強く反発していたが、ここ最近は「不法で反人倫的なもの」などと、ソフトな非難にかわった。

金正恩氏が米韓との対話姿勢に転じた理由として、制裁が北朝鮮を追い込んだ成果だという見方が大勢だが、これに反発するかのように「米朝関係の変化は、圧迫・制裁によるものではない」とする論調も目立つ。

筆者は、必ずしも制裁だけで北朝鮮が姿勢を変えたとは思わないが、あえて言及するということは、決定的ではないにしろ制裁がボディブローのように効いているのかもしれない。もしくは「制裁はやめてほしい」という隠れたメッセージかもしれない。

制裁問題に加え、北朝鮮が抱えるアキレス腱は「人権問題」だ。米トランプ政権は米朝首脳会談の話が電撃的に浮上する直前、大統領と副大統領が相次いで脱北者と面談するなどして、北朝鮮圧迫のための「人権シフト」に動いていた。たとえばトランプ氏は、中朝国境での北朝鮮女性の人身売買を「やめさせる」とまで言っている。

金正恩氏には、核問題を中心に対話を進めながら、人権問題に関する議論は避けつつ、なんとか制裁解除を勝ち取る思惑があるのかもしれない。

さて、ここで不透明なのが米国の姿勢だ。トランプ氏が金正恩氏と会談する意向を示した直後、対話重視の穏健派と見られていたティラーソン国務長官が解任され、後任に対北朝鮮強硬派として知られるマイク・ポンペオCIA長官が任命された。

また、次期米大統領補佐官(国家安全保障担当)にボルトン元国連大使が指名された。ボルトン氏は、ネオコン(新保守主義派)を代表するメンバーの一人で、対北朝鮮強硬派だ。

トランプ氏が米朝首脳会談を行うとした5月まで、残り時間は少ない。表に出てくる情報が少ない中、米朝は熾烈な神経戦を展開しているのかもしれない。

© デイリーNKジャパン