【現場を歩く】〈杉山商店・大野工場(岐阜県揖斐郡)〉中部最大級スチールドア生産拠点 母材手配から最終製品まで一貫製造体制、多様なニーズにスムーズ対応

 中部地区老舗鋼材流通、杉山商店(岐阜市、社長・杉山正氏)の大野工場(岐阜県揖斐郡)は国内大手総合建材メーカー向けに防火扉などのスチールドア関連製品を全国に供給する。スチールドアは火災など有事の際、我々の生命や財産を守る陰の立役者といっても過言ではない。94年に工場開設以来、現在では中部地区最大級の生産規模を誇る同工場を訪れた。(齊藤 直人)

 松尾芭蕉の奥の細道むすびの地となった岐阜県大垣市の北部に位置する揖斐郡大野町に同工場は立地。付近には798年(延暦17)に創建された谷汲山華厳寺があり、工場を挟むように根尾川、揖斐川が流れ、緑と水に囲まれた工場だ。

メーカーの機能を有した鋼材流通

 1936年に創業、47年より鋼材販売を本格化させた同社は、取引先だった地場ファブが82年に廃業。跡地を買収したのを機にスチールドア加工事業に進出した。生産量拡大に伴い、現在地に移転後、まもなく四半世紀を迎える。大野工場(敷地面積1万2189平方メートル)はスチールドアを生産する第1工場(建屋延べ面積5873平方メートル)とシャーターの駆動部(巻き取り部材)を生産する第2工場で構成される。大野工場の全スタッフは約60名。同社で生産するスチールドアは1・6ミリ以上の鋼板を使用し、火災の拡大を防止する、ビルなどの踊り場で目にすることが多い『甲種防火扉』。「当社で生産するスチールドアは、設置場所に合わせて、設計図を作成し、生産するオーダーメイド型。スチールドアごとにサイズだけでなく、丁番など使用する部材が異なる。見た目は同じに見えても、細部が違うため、量産しにくい。手間はかかるが、我々の競争力につながっている」(杉山社長)。珍しいのは鋼材流通が、最終製品まで一貫して製造し、メーカーとしての機能を果たしている点だ。

全国の著名物件向けに供給

 第1工場では、鋼板をプレスしながら、打ち抜くタレットパンチプレス加工もしくはレーザ加工により必要なサイズに鋼板を切り出した後、溶接、曲げ、下地塗装までを行い、トレイ状に加工したスチールドア本体、および本体を納める枠材を生産する。生産可能な最大サイズは最大5・5メートル角だが、ノックダウン(現場組み立て)方式であれば、対応サイズはこの限りではない。

 07年より、順次生産設備を新鋭機に更新。12段パレットチェンジャー付きレーザ複合マシニングセンタ(レーザおよびパンチング同時加工機)を導入後、さらに12年には16段パレットチェンジャーおよび金型チェンジャー付き、高速タレットパンチプレス機を新設。生産技術に磨きをかけた。従業員の生産シフトは1直だが、母材加工は24時間自動稼働で行う。JR名古屋駅周辺の高層ビル群や、17年に名古屋市内に開園したテーマパーク「レゴランド」をはじめ、全国の著名物件に供給実績を有する。

 第2工場では1999年より開始した、最長17メートルまでの重量シャッターの駆動部(巻き取り部)を生産する。両工場ともに工場スケールを生かし、母材の入荷から仕掛品の流れを一方向化。多種多様なニーズに、スムーズな生産体制で対応する。

寸法公差±1ミリ

 「スチールドアのサイズが大きくなったとしても、寸法公差はプラスマイナス1ミリ以内が求められている」(富田厚工場長)。厳しい品質要求に応えるために、工場床にも気を配る。「床に溶接機の配線が這えば、従業員の転倒につながるだけでなく、仕掛品を次の工程に台車で搬送する際に、段差で衝撃を与えかねない」(同)と同社では溶接機を従業員の頭上から降ろす、アーム式を採用。従業員への安全面はもちろんのこと、品質へのこだわりも徹底する。

「5S」や環境改善徹底

 スチールドアを生産する第1工場で印象的なのが、前日に床を塗装したのではないかと思うほどの清掃が行き届いていることだ。「我々の製品は外観が重要視される。小さなホコリ一つでも、返品の対象になりかねない」と(同)約6年前より、工場の『見える化』に取り組む。在庫が3カ月滞留しているものは、不用品として処分する注意喚起を促すイエローカード的な役割を果たす紙を貼付。6カ月滞留したものは処分する。工場内の環境改善活動に積極的だ。「流通問屋としての考え方からなかなか抜け出せず、取り組みを始めた当初は在庫が多かった」(杉山社長)と振り返る。

「見える化」で生産量3倍、厳しい要求に応え競争力向上

 『見える化』が進むにつれ、同社の生産量は徐々に増加をたどる。母材、台車、仕掛品、部材などの置き場は整然と区画するなど5Sの徹底で、現場の生産が向上。取り組みを始めた当初の生産量は年500トン程度で推移していたが、現在では同1500トンにまで増加した。

 「見える化への取り組みの途中で生産設備を一新したことも、生産増に寄与しているだろうが、見える化への取り組みを進めていなければ、ここまで生産量を引き上げることはできなかった」(富田工場長)。同社では、全社員が当日の生産計画を把握できる工程編成表に基づき、生産を進めており、ユーザーから進捗状況などの問い合わせに、すぐに対応できるユーザーサービス向上にも注力する。

品質・コスト・納期+サービスで生き残り

 富田工場長は「足元は首都圏を中心とする建設投資増を背景に、フル稼働に近いが、長期的な視点に立った時、人口減による需要減は避けられないのではないのか」と需要動向を見通す。「我々の製品はスチールドアごとに生産パターンが異なるため、海外で量産対応できるほど単純なものではない。時には厳しい要求にも、我々のモットーである『鉄の可能性に磨きをかける』をモットーに、着実に答えてきたことが我々の製品競争力につながっている。しかし、それに胡坐をかいてはいけない。ユーザーニーズが刻々と、速いスピードで変化している。品質や生産性向上への取り組み、5Sなど様々な改善活動は、終わることはない。終わりと思った時点で、会社の成長や発展はないのではないのか。QCD(品質・コスト・納期)プラスS(サービス)で、選ばれる会社であり続けたい」と語気を強める。

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