【ニュースの周辺】〈タタ製鉄のブーシャン買収〉能力倍増に現実味 JSW、エッサールで「反撃」か

 インド高炉大手のタタ製鉄が同業のブーシャン・スチールを買収する方向が固まった。タタは今後5年で印事業の能力を倍増させる計画で、ブーシャン買収が成れば大きく現実味が増すことになる。タタの逆転を許しかねないライバルのJSWスチールは、他メーカーの買収で「反撃」に動く可能性が高い。

 タタの粗鋼年産能力は欧州事業や東南アジア事業を含めると2750万トンに上る。しかし近年は欧州事業の立て直しに追われ、国内事業の強化が遅れたことでJSWに印民営最大手の座を奪われた。

 そこでタタは欧州事業をドイツのティッセン・クルップと統合させ、本拠である印市場への回帰を進めている。現在の印事業の粗鋼年産能力は1270万トン。この倍となると、あと1300万トンほど能力増が必要になる。

 まず自己成長では、2月にオリッサ州のカリンガナガール製鉄所で今の年産300万トンを800万トンへと増強することを決定。480万トン分の高炉や320万トンの熱延ミル、220万トンの冷延ミル、90万トンの焼鈍設備、100万トン分の溶融亜鉛めっきラインを新設する。2022年にも本稼働する見通しだ。

 これにオリッサで高炉一貫製鉄所を持つブーシャン・スチールの500万トンが加われば計1千万トンの能力増となる。タタはブーシャン・スチールの兄弟会社で、同様に再建スポンサーを募っているブーシャン・パワー&スチールの買収にも動いており、ブーシャン・パワーがオリッサ州で操業する230万トンの一貫製鉄所も手に入れば「倍増」を達成できることになる。

 ブーシャン・スチールは、以前は日本などから熱延コイルを調達していたリローラーで、住友金属工業と技術提携していた時期もある。高炉へ進出し鉄源を自給化したものの過剰投資や操業不振が祟り、昨年7月末から法的管理下に入っていた。

 ブーシャンにはJSWも買収に動いていたとされるが、タタに軍配が上がったことで今後はJSWが新たな買収に動きそう。奇しくもエッサール・スチールをめぐりスポンサー選定の再入札が行われることになり、ここにJSWが参戦する可能性も指摘される。共同戦線を組んでいるアルセロール・ミッタル、新日鉄住金連合には思わぬ横槍が入る可能性が出てきた。

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