転機に立つ医療・3 人手不足 “格差”拡大の恐れも

 県が策定した地域医療構想によると、県全体の医療需要は今後、高齢者の増加に伴い漸増し2035年にピークを迎える。構想は同年に必要なベッド(病床)数を16年度比約2割減の1万7700床程度と推計。病床の機能別では▽「急性期」を重症者に限定し削減▽「慢性期」を減らして在宅医療へ移行▽「回復期」は高齢化に伴い増加-といった動きが進む見通しだ。
 県は医療機関などが構想実現に使う費用を、消費税財源を活用した基金事業で支援。機能転換などを病院に命令、勧告できる権限強化も行われた。地域医療構想調整会議は、これらを踏まえて18年度に協議を進めるが、スムーズに進むかは長崎区域に限らず不透明だ。
 県は同構想を盛り込んだ今月策定の新しい県医療計画(18~23年度)で、県内8区域の課題を分析している。
 佐世保県北区域(佐世保、平戸、松浦各市と北松佐々町)は、佐世保市中心部に急性期病床が集中し、長崎区域と同様に調整は難しそうだ。平戸、松浦両市の医療資源不足が課題で、松浦市では同構想の方向性に反する伊万里松浦病院(佐賀県伊万里市)の移転開設を1月、県が特例で認可した。
 県央区域(諫早、大村両市と東彼杵郡)は大病院が多く、急性期が充実している一方で回復期は少ない。県南区域(島原、雲仙、南島原各市)は看護師や小児科医の不足が課題。
 ▽五島▽上五島(新上五島、北松小値賀両町)▽壱岐▽対馬-の離島4区域は、病院の集約や機能整理が一定進んでいるが、全体の傾向と異なり医療需要は減少傾向にある。急激な人口減の影響が、高齢者増の影響を上回るためだ。
 程度の差はあれ、8区域に共通するのは、医師や看護師だけでなく薬剤師、歯科医師など、幅広い関係者を含めた人材の高齢化や人手不足だ。同構想に関する県全体の調整を担う、県保健医療対策協議会企画調整部会の高原晶部会長(県医師会副会長)は「国は在宅医療を進めるというが、看護師や介護の人材不足が解決されないうちに病床を減らせば、患者が路頭に迷う」と懸念を強める。
 都市部に病院や人材が集中する一方、離島や過疎地域は手薄。「医療資源の偏在」は本県の根本的課題といえる。手当てがされないまま病床再編だけが進めば、医療格差の一層の拡大につながる恐れもある。県医療政策課は「病床削減でなく、地域で安心して医療を受けられる体制をつくることが構想の主眼。区域ごとに考え方を整理しなければならない」とする。

◎メモ/病床の機能
 医療機関が一般病棟の機能を主な治療内容で分類し、病床数を都道府県に毎年報告するよう義務付けた「病床機能報告制度」に基づく「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4分類。現状は手厚い医療を施す代わりに高額な診療報酬が受け取れるため、急性期に偏っている。病床再編に役立てようと国は2014年度に報告制度を創設。地域医療構想の導入につなげた。

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