《音楽日々帖》春霞のような 淡く美しい音楽

selection&text: 稲葉智美

 唱歌「さくら」や「朧月夜」にも登場する、春の季語「霞」。今月はこの季節に見られる「春霞」のような、淡く美しい音楽を集めました。

 まずはデヴェンドラ・バンハート『エイプ・イン・ピンク・マーブル』。たゆたうようなフォークを基本に、ボサノヴァやオリエンタル趣味な琴の音色が取り入れられ、異国情緒漂う一枚です。彼は日本の音楽が大好きとのこと。そう言われれば、どことなく細野晴臣のトロピカル3部作のような雰囲気も。浮かんで消える音の蜃気楼は、どこかの国の景色か、はたまた幻想か。淡いトーンながら印象深い1枚です。

 足元のエフェクター操作に夢中になるあまり、まるで靴を見つめているかのような演奏スタイルを揶揄し、「シューゲイザー」と呼ばれるようになった音楽ジャンルがあります。スロウダイブの『スーヴラク』は春の夜を歩きながら聴きたいシューゲイザーの名盤です。ノイズとリバーブの霞でバンドサウンドの輪郭がぼやけ、甘美な世界に沈んでいく。ロックはここまで繊細で美しくなれるんです。

 せっかくなので、美しいロックをもう1枚。昨年、DAOKOとのコラボで(日本国内でも)話題を集め、この夏のサマーソニックに出演が決定しているベック。『モーニング・フェイズ』は、霞がかった朝の空を思わせるストリングスから始まり、アコギとピアノがゆったり語りかける「モーニング」へと続きます。5曲目は「ブルームーン」という曲ですが、3月31日は今年2回目のブルームーン。この曲とともに、春のお月見を楽しんでみてはいかがでしょう?

DEVENDRA BANHART『Ape in Pink Marble』

 2000年代のUSフォークシーンで活躍。ディスコ調やボサノヴァ調、琴の音色を取り入れて、エキゾチズムを感じさせる9作目。タイトルの「ピンクマーブルの猿人」とは一体…

ワーナーミュージック・ジャパン 2016

SLOWDIVE『Souvlaki』

 90年代シューゲイザーを代表する英国のロックバンドの2作目。1995年に解散するも、2017年に22年ぶりの新作『Slowdive』を発表、シューゲイザー復活イヤーを盛り上げたバンドの一つ

輸入盤 1993

BECK『Morning Phase』

 1994年発表の『Loser』で注目を集め、90年代から現在まで第一線で活躍するUSロックシーンを代表するアーティスト。2015年のグラミー賞で最優秀アルバム賞を獲得した12作目

Hostess 2014

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