金属行人(3月29日付)

 「日本はすべての方面において真剣さと努力が足りない」。冶金学の大家、三島徳七氏が1954年に日本鉄鋼協会の論文誌『鉄と鋼』に寄せた『欧州視察報告』の一節だ。当時最先端だった欧州鉄鋼業。その現場を目の当たりにし、後れを取る日本鉄鋼業に奮起を促している▼その5年後の59年。同論文誌は米USスチールの研究部門トップと富士製鉄のトップによる会談内容を伝えている。最先端に学ばねばという当時の日本の真摯な姿勢を映したような内容だ。それからしばらくすると、日本は技術水準を大きく高める。世界における存在感もぐんと増す。鉄づくりの底流に「真剣さと努力」が満ちていたからに違いない▼今、欧州の鉄鋼関連の大学・研究機関で中国からのあまたの留学生が熱心に学んでいるという。「こうしたダイナミズムが今の日本鉄鋼業にあるかと問われると心もとないところがある」。先日の日本鉄鋼協会主催の講演大会。高橋健二副会長(新日鉄住金副社長)は挨拶で日中のこの「差」を指摘した▼三島氏の言葉に通じる響きを感じるのは小欄だけではないだろう。中国鉄鋼業はますます手ごわい相手になっていく。日本鉄鋼業はいま一度の「真剣さと努力」を求められているのかもしれない。

© 株式会社鉄鋼新聞社