【現場ルポ】〈JFEエンジニアリング・プラントの遠隔監視施設「グローバルリモートセンター」〉国内外の操業・保守など統括、運営事業を合理化 AI・ビッグデータ、トラブル対策に活用

 JFEエンジニアリング(社長・大下元氏)は各種プラントを遠隔監視する「グローバルリモートセンター」(GRC)を横浜市鶴見区の横浜本社に設立し運用を開始した。国内外の遠隔操業・保守の統括拠点となる。現場を取材した。(村上 倫)

 GRCは公共サービスの民営化が世界のトレンドとなる中で、プラントのEPC(設計・調達・建設)のみならず操業やメンテナンスなど運営までを担うための重要な拠点。『暮らしの基を創る、担う』を掲げる同社の方針に合致した施設だ。同社は1970年代から長距離パイプラインの遠隔監視技術を保有。これを生かし、03年には遠隔監視の端緒となる「リモートメンテナンスサービス」を開始した。

 14年9月は廃棄物処理施設の遠隔監視・操作を行う「リモートサービスセンター」を設立。その他のプラントについては各商品ごとにリモート接続による遠隔監視を行なっていた。今回、約5億円を投じてGRCを設立し廃棄物処理施設に加え水処理施設、太陽光発電施設、バイオマス発電施設などを総合的に監視する体制を整備。対象施設は足元で58施設に拡大した。内訳は廃棄物処理施設が32施設、太陽光発電施設が20施設で残りが水処理、バイオマス発電施設となっている。

 これを18年度には廃棄物処理施設5施設、エネルギーサービスプロバイダ5施設、バイオマス発電施設2施設を加えた70施設に拡大。さらに2020年度には「クレーンやパイプラインなども監視対象に加え100施設まで拡大する」と技術本部長の幡多輝彦取締役専務執行役員は意気込みを語っている。GRCから熟練オペレーターやAIによって遠隔監視や操業支援を行うことで操業やメンテナンスコストの低減と運営事業の合理化を図っていく。

 GRCはもう1つ、AI・ビッグデータを集約するプラットホーム拠点としての役割も担う。今年4月1日付の組織改正で「AI・ビッグデータ活用推進部」を新設。AIやビッグデータをトラブル対策に活用し、予兆診断による運転障害の未然防止を図ると共に操業支援による迅速な正常化対応など最適操業や設備診断、自動運転などのソリューションを提供していくための開発基盤とする。将来的には完全自動運転の実現も視野に入ってくる。

 さらに、100%子会社で電力小売業を担うアーバンエナジーと連携。各発電プラントの発電計画や実績をオンライン化し、タイムリーな需給調整を行うことで電力供給元と需要家の双方の利益に貢献する。監視対象地域は国内のみならず海外にも拡大。フィリピンのエンジニアリング拠点「JFEテクノマニラ」にGRC分室を設置。両者が連携して海外プラントの迅速な障害復旧をサポートする。現在は同社が手掛けたミャンマー初の廃棄物プラントのみだが、フィリピンの浄水場とシンガポールの廃棄物処理プラントの支援も行う計画で「2020年には海外10施設の遠隔監視を行いたい」(幡多専務)とする。

 GRCの設備は大型ディスプレイ34台、スクリーン8台、オペレータ用のパソコン18台、設計者用のパソコン12台。監視は10人でシフトを回しており、2~3人が常駐。どのパソコン、ディスプレイでも任意のプラントの監視が可能だ。GRCの設立にあたり「最も注力したのはサイバーセキュリティ対策」と幡多専務は強調する。データのクラウド化など対策を行い、今年2月には国内5社目となるCSMS(サイバーセキュリティマネジメントシステム)認証を取得。プラントごとに分かれていたネットワークを一カ所に統一し回線も太くして品質も向上させた。機能停止に陥らないよう非常用発電機も備え電源喪失時も30時間は機能を継続できるなど万全の体制で、顧客の安心を担保している。

 このほど開催されたプレスツアーではデモンストレーションを実施。東京都の廃棄物処理施設「クリーンプラザふじみ」の操業支援を行った。ストーカ炉の焼却点が上流側に偏り適切な燃焼となっていないという想定で、遠隔操業支援によりごみの送り速度を上げることで正常化させた。また、AIによる対話型支援も実演した。運転員の音声による問い合わせをテキスト変換しAIが意図を理解。問い合わせに対する適切な回答を音声によって行った。

 さらに、ミャンマーへの操業支援も実演。ヤンゴン市はインフラ事情が悪くかなりの頻度で停電が発生。プラント運転への影響を最小限とするために停電予兆アラームの設定値を変更して精度を高めるなどGRCが操業支援を行った。加えて、アーバンエナジーが電力需要増に対応するため、GRCが廃棄物発電プラントの運転状況を確認し、発電計画の修正を行うデモも実演。プラント操業の未来を先取りして創出した施設と感じた。

© 株式会社鉄鋼新聞社