「らしさの数だけ働き方ある」リクルートの障がい者雇用支援

今年4月には、障がい者の法定雇用率が現行の2.0%から2.2%に引き上げられる。2017年夏の時点で、法定雇用率を達成している民間企業は半数以下で、特別支援学校に通う生徒の就職率は、障害種別平均でわずか29.4%(参考:2016年度文部科学省特別支援教育資料)。障がい特性ゆえに「働きたくても働けない」という悩みを抱えている人向けに、人材大手のリクルートホールディングスのグループ会社であるリクルートスタッフィングは2011年から就労支援を行っている。約1万の取引企業数を誇り、「働き方はその人らしさの数だけある」と社会へ訴求していく。(オルタナS編集長=池田 真隆)

精神保健福祉士の野口真理子さん。約50人の利用者を一人で担当する

リクルートスタッフィングが行う障がい者向けの就労支援の名称は、「アビリティスタッフィング」。ミッションは、「すべての人がいきいきと働ける社会を創る」だ。働き先を見つけることがゴールではなく、「働き続けること」を重視する。マッチングが成功した場合、その企業から紹介料をもらうが、利用者からは一切受け取らない。

実際、このサービスを開始して今年で9年目を迎えるが、これまでに6600人が利用し、そのうち660人が仕事を見つけた。就労した約9割が半年以上働き続けている。

どのような仕組みでこの数字を達成したのか。特徴の一つがクライアント企業数の多さだ。リクルートスタッフィングの取引企業数は約1万社を誇る。さらに、就労後の定着を支援するために、一人ひとりに精神保健福祉士が付いて相談に乗っていることも働くことに不安を抱えた当事者の心の支えになっている。

精神保健福祉士は受け入れる会社側にも出向き、セミナーを開く。利用者の特徴を事前に伝えて、マネジメントやコミュニケーションで配慮すべきポイントについてレクチャーしている。同社には3人の精神保健福祉士がいるが、全員民間企業出身者だ。企業目線も持ち合わせているため、マネジメント方法はより現実的な提案を心がけているという。

入社後も月に1回は、利用者と受け入れ企業双方との面談を実施。利用者には、生活リズムを可視化するために、「心の温度計」と名付けたシートに睡眠時間などを毎日記入してもらっている。精神保健福祉士は、このシートをもとに、利用者の業務量と体調の乱れを確認していく。

■相談役が定着を支援

「2017年障害者雇用状況」によると、民間企業が雇用している障害種別では身体障がい者が67.3%で最も高く、 知的障がい者(22.6%)と 精神障がい者(10.1%)との差は大きい。

精神障がい者の就労を定着させるために、どのような取り組みを行っているのか。同社で2011年から働く野口真理子さん(精神保健福祉士/エンゲージメント推進部)は、「いつでも相談できる人をつくることが重要」と言う。

統合失調症があるAさんは6カ月間の派遣契約を経て正社員として雇用された。新しい環境に馴染めず長続きしないことが悩みだったが、就労期間は1年を超えた。

入社当初、Aさんから「(自分が)嫌われているのではないか」という相談がメールで頻繁に来たことがあったという。野口さんは、Aさんの上司とも定期的に面談などを通して連絡を取り合っていたので、すぐに「嫌われてはいないですよ」とメールを返した。上司の言葉をそのまま伝えるときもあったという。

野口さんは、「辛いときに悩みや不安を吐き出させる環境をつくることが、働きやすさにつながる」と話す。「仕事が決まっても、なかなか定着しなかった過去があると、職場の人に悩みを打ち明けることはマイナスの評価につながると思ってしまいがち。だからこそ、悩みを話せる人の存在が貴重」。

障がい者と健常者の共生として、「ダイバーシティ&インクルージョン」と掲げられることがあるが、一見難しく考えてしまいがち。もちろん、階段や段差などのハード面での配慮や言葉の選び方で気を付けることもあるが、なにより、野口さんが言うように、その本質は「話しを聞くこと」にあるはずだ。

「社会には様々な人がいて、それぞれに強みと弱みがある。健常者と障がい者も同じで、お互いの得意不得意を生かしていけばいいだけのこと」と野口さんは話す。

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