“松坂効果”を一過性で終わらせないために――中日が取り組むべき「これから」

春季キャンプでも積極的にファンサービスを行っていた中日・松坂大輔【写真:荒川祐史】

全国的に注目が高まった今季、来客増など早くも効果てきめん

 2018年のペナントレース開幕が目前に迫ってきた。数々の楽しみがある今シーズンで最も大きな注目を集めているのが、中日に移籍した松坂大輔投手の存在だろう。右肩の故障で3年間在籍したソフトバンクを退団。新天地を中日に求めると、オープン戦3試合に登板。結果はともあれ、順調にキャンプとオープン戦を過ごし、シーズンでの登板も見えてきた。

 キャンプが始まる前から期待されていた“松坂効果”は、予想を超えるものとなった。まだオープン戦が終わった段階だが、早くも中日に大きな恩恵をもたらしている。キャンプ地には例年以上の観客が訪れ、松坂グッズは売れに売れた。オープン戦初登板となった4日の楽天戦は3万1282人、2度目の登板となった14日の西武戦は平日デーゲームにも関わらず2万4417人が訪れた。25日のロッテ戦には3万6096人が来場し、これは同日オープン戦が行われた6球場で最多の来場者数だった。

 松坂の投げたオープン戦3試合は合計9万人超が来場したことになる。オープン戦では招待券での来場も多く、チケット収入がどれほどなのかは定かではないが、単純に客単価500円と見積もっても4500万円、客単価1000円なら9000万円の収入になる。運営コストなどはかかるものの、松坂の今季年俸分は十分に売り上げたはずである。

 開幕ローテ入りが有力視されている松坂。オープン戦では肩の不安なく投げられており、25日のロッテ戦では最多の93球を投げた。「ゲームで出てよかったなっていうこと(課題)は、ほぼ出たんじゃないですかね。シーズンに向けてやることというのは、もう少し自分の状態を上げていけたらいいかな、と思いますね」と語り、シーズンを迎える準備はある程度整ったことを感じさせた。ここからは、結果を残し、復活を遂げてくれることを願うばかりだ。

松坂加入で増えたファンを一過性で終わらせないために…

 一方で、中日にとって大事になるのは、ここから先だ。松坂獲得によりファンの視線が中日ドラゴンズに向いているのは間違いない。24日ロッテ戦にも3万1557人が来場したが、これもオープン戦ではまずまずの数字。2018年シーズン、ファンがチームに期待を寄せていると証と言えるだろう。

 現時点で現れている“松坂効果”は、あくまで「松坂大輔」の人気であって、必ずしも「中日」の人気とはイコールではない。松坂の加入によって視線を向けてくれた“ライト層”のファンを、いかに中日ドラゴンズのファンとしてつなぎ止められるかが、低迷気味の「中日人気」を回復させるカギとなるだろう。

「大事なのはここからだと思います。松坂投手が来たことで、確かに松坂投手が投げる試合には多くの方がドームに来てくれるようになりました。これをどうやって他の試合につなげげられるか、だと思いますね」。とある球団関係者もこう語る。

 松坂見たさでナゴヤドームへ足を運んだ観客に対して何も働きかけなければ、その観客増は一過性のものに終わり、元の状態に戻ってしまうだろう。これをいかにシーズンにつなげ、固定ファン獲得につなげていくか。松坂を見に来たファンに、いかに松坂が投げない試合にも足を運んでもらうのか、が重要になってくるだろう。

 もちろん、チームが強くなることは必要だ。チームが魅力ある野球を展開することが、最大のファンサービスで、ファンの満足度を最も高められる。「ドラゴンズの野球は面白い」と“ライト層”のファンに思わせることは大事だ。

 それと同時に求められるのは、ファンを楽しませるための演出であったり、魅力あるイベント、ドーム内でのホスピタリティーだろう。球団全体としてファンの顧客満足度を高めることが大事で、あらゆる施策を行っていく必要がありそうだ。

潜在ファンは少なくない中日、ドームから離れた足をいかに呼び戻すか

 昨季からナゴヤドームには「106ビジョン」と呼ばれる超巨大オーロラビジョンが導入された。2016年まで1面だったオーロラビジョンの両サイドに、新たに高画質のオーロラビジョン2面を設置。3面構成で全長約106メートルに及ぶ、セ・リーグ本拠地で最長最大の“超巨大スクリーン”とした。大迫力かつ圧巻のビジョン演出が可能になったのだから、これを利用しない手はない。オフにはフルカラーのLED照明も導入され、色彩豊かな多種多様なスタジアム演出もできるようになった。揃ったハードをどう生かすかは、球団の“腕”にかかっている。

 決して、中日はファンが少ない不人気球団ではない。名古屋を中心とした地域にしっかり根差している。故星野仙一氏が指揮を執った1997年には年間観客動員は260万人超。2000年前後も年間230万人から240万人の動員があり、阪神を上回り、巨人に次ぐセ・リーグ2位の観客動員数を誇っていた時期もある。ほぼ毎年のように優勝争いを繰り返した落合博満監督時代も、年間230万人前後は入っていた。

 かくいう私も名古屋出身で、幼少期はナゴヤ球場やナゴヤドームに数多く足を運んだ身だ。チームが遠征に出ても、数多くの中日ファンが敵地まで足を運んだ。チームとしての魅力が薄れたことで、ドームから足が遠のいているだけで、潜在的な中日ファンは多くいるはずだと思う。ただ、チームが勝てなくなったから観客が減ったという単純な話ではなさそうだ。勝敗を差し引いた部分でも、魅力ある球団でなくなっていったということだ。

 スターがいない、全国区はドアラだけ、と揶揄される。だが、大島洋平は球界を代表する外野手であり、次期エースの小笠原慎之介、昨季新人王に輝いた京田陽太、今季ドラ1ルーキー鈴木博志といったスター候補は多い。それが広く全国に知られていないだけで、必ずしもつまらないチームだとは思わない。こうした魅力をメディアを利用しながら伝えていくことも、球団が取るべき1つの方策かもしれない。

 様々な取り組みによって観客動員をアップさせてきたDeNAや広島などはいいお手本だろう。中日にとっての“松坂効果”はキッカケに過ぎない。キッカケにしなければならない。これを未来につなげていかなければ、松坂と契約した意味も半減するのではないだろうか。

(Full-Count編集部)

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