野母崎・樺島にカツオドリの群れ 運命的“再会”で研究心に火

 長崎市の長崎半島南端、野母崎地区の樺島にある「白戸の穴洞窟」。長崎ペンギン水族館(同市宿町)学芸員の村越未來さん(31)は、岩場をねぐらにしている海鳥の群れを見て、驚いた。「まさか野母崎で、カツオドリが100~200羽の集団でいるなんて。繁殖地以外での集団は確認されていないのに」

●別名「ツッコミ」

 カツオドリは、熱帯や亜熱帯の海域に生息。国内では、小笠原諸島や八重山諸島などが繁殖地として知られる。
 翼長は140センチほど。体は黒く腹は白い。長いくちばしの付け根が青いのは雄、黄色は雌。足に大きな水かきがあり、まるでペンギンだ。人気アウトドアファッションブランド「CHUMS(チャムス)」のマスコットもカツオドリの一種だが、やはりペンギンとよく間違えられるという。
 空を飛びながら獲物を探し、主に小魚を食べる。その捕り方が勇ましい。ミサイルみたいにくちばしから一直線に海中へ突っ込み、7メートルほど潜る。野母崎では「ツッコミ」と呼ばれる。狙うカタクチイワシは、カツオやブリにとっても好物。地元漁師によると、カツオドリが飛び交う海域は、カツオやブリが群れている可能性があり、いい目印だという。

●次々に浮かぶ謎
 静岡県出身の村越さんは東海大海洋学部を卒業し、大学院で約2年半、カツオドリを調査研究した。2011年10月、同水族館に就職した後は、この調査研究から離れていた。
 ところが昨冬、野母崎にカツオドリがいるという情報が入った。早速休日に羽数などを調べてみると、10月下旬~4月上旬にいることが分かった。なぜ野母崎で、群れて生息しているのか。
 他にも謎が浮かんだ。主に単独行動を取るとされるカツオドリだが、漁師歴17年の木村智美さん(42)が撮影した動画には、数十羽が次々海に突っ込む姿が映されていた。群れているだけでなく、集団行動も取っている。「こんなの初めて見た」

●豊かな海に飛来
 野母崎に群れる10月下旬~4月上旬は、村越さんが調査した八重山諸島での繁殖期(春ごろから10月中旬)とずれている。樺島周辺で瀬渡しなどを営む船長の松崎辰樹さん(53)によると、この海域では冬場にカタクチイワシが増える。北西の風が吹くが、白戸の岩場は南東向きで寒さがしのげる。位置的には、繁殖地の一つである鹿児島の草垣群島の真北。
 こういったことから、村越さんは「野母崎には、集団で飛び込むほど豊富な資源がある。寒さに耐えてでも餌を求めて、北に渡って来るのでは」と推測する。
 木村さんは「カツオドリは冬になったらいつも見かける。漁師の日常会話にもよく出てくる鳥。それが珍しいんだとすれば、やっぱり野母崎はすごいな」と誇らしげ。写真や動画を撮り、調査に協力している。
 村越さんは「野母崎の人たちはカツオドリを見守って、調査にも協力してくれて、ありがたい。ゆくゆくは足輪標識を着けて調査し、論文にしたい」。カツオドリとの運命的な“再会”で、研究心に火がついている。

餌を求めて海に突っ込むカツオドリの雄=長崎市以下宿町、野々串港沖(木村智美さん撮影)
休日に船に乗って調査に出る村越さん=長崎市、樺島沖
樺島の「白戸の穴洞窟」の岩場に群れるカツオドリ

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