国境離島新法1年 滞在型観光 推進へ模索 長崎県内宿泊者 目標届かず 受け入れ態勢に課題も

 国境近くの離島の人口維持と保全を目指す国境離島新法が施行され1日で丸1年。新法に基づき島民などを対象に運賃が引き下げられた航路・空路は前年度に比べ利用者が増加した一方、新法を活用した滞在型観光事業で離島の延べ宿泊者数は県の目標の3割強にとどまった。関係市町や観光団体は巻き返しを図ろうと、2年目以降の取り組みを模索している。
 新法を活用した旅行商品は交通、宿泊、体験メニューを組み合わせ、大手旅行会社などが開発し販売。原則島民を対象に割引されている運賃割引幅の範囲で国などが旅行代金を助成する。県外は新潟県佐渡市などで実施されている。
 県は、この旅行商品の延べ宿泊者数目標を2月末までで3万4千人と設定していたが、実績は1万1680人。商品の販売開始時期が昨年7月となり、周知不足も響いた。

世界遺産見据え

 新法活用の旅行商品で延べ約2300人が宿泊した五島市。市内に構成資産がある「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界文化遺産登録を見据え、奈留島や久賀島の教会を巡る「キリシタン物語」ツアーの実施回数を7月から1日2回に増やす。また夜型観光の目玉として昨年10月から始めた「鬼岳星空ナイトツアー」は3月までに約270人が参加し、好調な滑り出しだ。
 同市観光物産課の担当者は「4月からは、二次離島を巡るクルーズといった島々が多い五島らしさを打ち出したい」と意気込む。
 新上五島町は延べ約1100人の実績で、つばき油搾油や五島うどん作りの体験などが好評だったという。町観光商工課は「初年度としては善戦とも言えるが、体験プログラムは受け入れ人数拡大や講師役確保など課題も残る」と気を引き締める。
 一方、トレッキング体験を打ち出した対馬市は延べ480人と伸び悩み。市観光商工部は、福岡都市圏からの客が近場の壱岐市で宿泊し、対馬市では日帰りするケースが多かったことが要因とみる。

「魅力的な素材」

 民間関係団体は慎重に推移を見守っている。壱岐市観光連盟は「体験メニューに関心がない人は高くてもフリープランを選ぶケースがある。2年目も同じプラン内容でいくかは検討する」。ホテル経営者でもある新上五島町観光物産協会の田中太之代表理事は「連泊になるということは、食事を飽きさせないよう宿側の努力が必要になるということ」と指摘した。
 五島市と新上五島町向けの旅行商品を開発し、関東や関西から両市町に誘客した旅行会社大手のクラブツーリズム(東京)。担当者は「初めて訪れるお客さまが多く、まだまだ需要があると見込んでいる。離島は旅行業者にとっても魅力的な素材」と期待感を示している。

対馬市内の観光名所を巡るツアー客ら=対馬市豊玉町、和多都美神社(対馬観光物産協会提供)
各地の滞在型観光メニュー例

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