たった一人の新入生「みんなが祝福」 朝鮮学校で入学式

【時代の正体取材班=石橋 学】たった一人の新入生を包む幾重もの温かなまなざしがあった。日本の小学校に当たる朝鮮初級学校の入学式が1日、県内3校で行われた。川崎市川崎区の川崎朝鮮初級学校に入学したのは女子児童(6)ただ一人。保護者に経済的負担を強いる県の補助金打ち切りが影を落とす中、日本人有志、地域住民が晴れ姿を見守った。  上級生約30人や先生たちが花飾りや風船のアーチを作り、「チュッカヘヨ(おめでとう)」と声を掛けていく。真新しいランドセルを背負った緊張気味の顔がほころぶ。その輪の中に、日本人有志や地域住民で作る「入学おめでとう応援隊」の姿があった。

 朝鮮半島の情勢が揺れ動くたび、朝鮮学校の子どもたちへの嫌がらせが繰り返されてきた。「あなたたちは何も悪くない。祝福し、励まし、見守っている日本人がいると伝えたい」。横浜YMCAなどが中心になって始まった応援隊はそんな思いで2003年から毎春、入学式に駆け付ける。

 初めて参加した逗子市の依岡桂美さんは「子どもたちが安心して通える環境をつくるのは私たち日本社会の責任だから」と話す。

 きっかけは16年度の朝鮮学校生への補助金の打ち切りだった。県内の外国人学校で教科書の記述が問題視されたのも、補助金が止められたのも朝鮮学校だけだ。今年の新入生は県内3校合わせて16人で、20人を下回ったのは70年以上の歴史で初めてのこと。補助金がないがゆえの経済的負担、行政自ら学校を排除するという公の差別がもたらす影響が色濃くにじむ。

 「クラスメートがいないのは残念だが、同胞の上級生がきょうだいのように接してくれる」 娘を朝鮮学校に通わせることを決めた父親(59)はそう話す。「朝鮮の言葉や目上の人をうやまう礼節を学んでほしい。それ以上に望むものはない」。自身も同校に学んだ在日朝鮮人2世。早速上級生の輪に溶け込む娘の姿に目を細めながら、応援隊にも「心強い」と感じていた。

 重なる記憶があった。2年前の冬、仕事帰りに「朝鮮人をたたき出せ」と連呼するヘイトデモに遭遇した。差別主義者の一団は自宅の方へと向かっていた。家に駆け戻り、娘を抱きかかえて沿道に立った。「差別をやめろ」。3世、4世の時代になるというのに、なぜいまさら出ていけなどと言われなければならないのかと、叫び返さずにいられなかった。

 「見回すと多くの日本人の市民が抗議の声を上げていた。応援隊もそう。私たちのことを気に掛けてくれていると思えただけで、有り難く、どれだけ勇気づけられたか」 補助金問題もだから、この社会の良心が解決してくれると信じる。

 「この子が卒業までに同級生が4人、5人と増えていってくれたら、と願っている」

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