【現場を歩く】〈造船の瀬戸内クラフト(尾道)〉アルミ船舶特化で事業拡大 設計から引渡しまで一貫対応が強み

 軽くて腐食に強く、リサイクル性に優れるアルミニウムは、軽量化素材として輸送機分野において存在感を高めている。昨今は自動車業界において燃費対策に採用される場面がクローズアップされているが、船舶業界では長らくFRPや鉄と並んで一般的な素材として認知されている。改めて船舶へのアルミの採用状況を知るため、造船メーカーの集積地として知られる瀬戸内・尾道を訪ね、アルミ船舶を製造する瀬戸内クラフト(社長・川口洋氏)を取材した。(遊佐 鉄平)

 今治や福山などと並んで瀬戸内海の造船の町として知られる尾道。年貢米を運ぶ港として平安時代末期に歴史に登場し、日本海や中国との貿易の窓口として発展した。明治期に入り相次ぎ近代的な造船工場が進出したことで、造船の町として世に知られるようになり、いまでも大小20以上の造船メーカーが日々船舶を建造している。

 JR西日本の尾道駅から車で15分。尾道大橋を渡った先、対岸の島「向島」の海岸線には、数多くの造船メーカーが立地する。瀬戸内クラフトもその一角に工場を構える。アルミ船舶といえば組立式の救命用ボートくらいだった1960年代から、本格的な高速船を建造するなどアルミ船舶の草分け的な存在だ。

 瀬戸内クラフトの源流企業である山陽機械工業が設立されたのは44年。船舶艤装品の製造を目的として立ち上げられ、67年にスカイアルミニウム(現UACJ)の技術協力を得てアルミ合金製小型ボート事業に参入した。68年に全事業を新設会社の瀬戸内工業に移管し、さらに80年には船舶事業を瀬戸内クラフトとして分社化。89年にはスカイアルミニウムの傘下に入り圧延会社の子会社としてアルミ船舶の製造に磨きをかけていった。

 2002年、スカイアルミニウムと古河電工軽金属事業部の合併が決まると、非主流事業だった船舶事業は競合他社への売却が検討された。その際に、瀬戸内クラフト役員でスカイアルミニウムの取締役でもあった川口洋社長が全株式を買い取り、03年に新生・瀬戸内クラフトとして再出発した。独立後も高い生産技術を背景に、税関艇や官公庁の取締船、民間の客船などで安定した受注を続け、現在では無借金経営を実現している。

 70年以上の歴史の中で、社名や資本構成は変化してきたが、瀬戸内クラフトはアルミ合金船舶に特化する形で事業基盤を固めてきた。製造する船舶は当初のプレジャーボートから始まり、中小型の高速旅客船、監視艇、調査船などに受注分野が拡大。現在は50~百数十トン規模の船舶をメインに製造しているが、建造実績としては野母商船(長崎県)に納入した総トン数425トン、航海速力15・25ノット、全長38メートル、旅客定員650人のアルミ合金船舶「ぐらばあ」が最大クラス。これは日本船舶海洋工学会の「Ship of the year2004」で準賞を獲得した船舶であることから、同社の技術力の高さがうかがい知れる。

 アルミ合金船舶の製造フローは(1)設計(2)現図、マーキング・切断(3)曲げなど各種加工(4)組み立て(大・小)、溶接(5)艤装―などの工程に分かれる。瀬戸内クラフトでは塗装、各種設備の据え付け、電気工事などは外注しているが、設計から組み立て、引き渡しに至る主要工程のすべてを自前で対応。顧客からの注文に一貫して対応できるのが強みでもある。

 従業員は約30人。20人の現場作業者のほか、設計担当者が6人おり、CADを使用して船舶内の機器の配置や配管図面の作成している。設計業務は外注することもできるが、川口洋社長は「顧客との打ち合わせで、話が分かる担当者が自社にいるといないとでは対応力に差が出てくる。私も元々は設計屋。一貫対応できるということにポリシーを持ってやっている」と説明する。

熟練技能、生産効率化で品質向上

 設計図を基に材料を加工する。材料となるアルミ合金は耐食性や耐海水性、溶接性に優れるという特徴を持つA5083合金板がメーンで、板幅は3~25ミリが中心だ。JISや海事協会の規格に適合したアルミ板や押出製品などを常時在庫しており、足元のような素材需給がタイトな場面でも材料切れを起こすことはない。

 アルミ板などの部材を切断する際の下書きとなる原寸大フィルムを作成する〝現図〟という工程や、そのフィルムをアルミ板に写す〝マーキング〟という工程を経て〝切断〟工程に入るのが一般的なフローだ。熟練者でも多くの時間が必要な作業で、瀬戸内クラフトでも押出材の切断時にはこの方法で加工をする。しかしアルミ板についてはトルンプ社の新鋭レーザー切断機(長さ6400ミリ、幅2400ミリ、2パレット式)を2年前に導入したことにより、切断機にCADデータを入力してアルミ板をセットすれば部材が仕上がるという工程の自動化を実現した。アルミ板を切断機で部材に仕上げる工程以外にも、アルミ板をベンダーで成形する作業、アルミ形材を曲げ型に合わせて手作業で曲げる工程などがある。

 各種部材の製作が完了したら、いよいよ部材を船舶に組み立てる作業に入る。小さな部材をブロックに組み立てたり、次工程で組みやすいように仮組みする〝小組み立て〟や、その小さなブロック同士を組み合わせる〝大組み立て〟を経ると、徐々に船体が出来上がってくる。

 組み立て作業では、船を逆さにした状態で船底から組み立てていく。作業者が船体の外板を一枚一枚丁寧にMIG溶接でつなぎ合わせていた。川口社長は「外板の溶接は1つ間隔がずれるだけでも全体が歪んでしまい修復が困難。最終品質を確保するためにも手は抜けない」と話す。逆さ状態での溶接が終わると、大型クレーンで船体をひっくり返して、船上部の組み立て作業に入る。

 組み立て工程を終えると、電気系統の工事やエンジンなどの各種機械類の搭載、室内外設備、モーターなどの艤装品を船体に取り付ける。「設備の配置場所は操作性に大きくかかわってくる。また一度取り付けてしまうと作り直しが困難なため、顧客と現場で細かく打ち合わせして決めている」(川口社長)。取り付けを終え、船体を塗装すればアルミ合金船舶は完成となる。組み立て工場から眼前の瀬戸内海に伸びるスリップウェイ(船台)を滑らせて進水し、試運転で不具合などを確かめれば船主に引き渡しとなる。

 受注から引き渡しまでの期間は、取材時に製造していた船舶で大体1年程度。意外に短い印象の納期だが、瀬戸内クラフトに納期遅延はない。熟練した技能者の腕だけでなく、この数年で実施してきた工程の自動化や作業効率向上のための建屋増築などが功を奏しているからだ。今後もこの取り組みを加速させる計画で、すでに本社の空きスペースに新しい工場を建設して組み立てエリアを拡張することを決定。「自動溶接機などは当面必要ない」(同)と話しながらもこれから必要となる世代交代に向け、工程の自動化は取り組むべきテーマとしている。

 川口社長は「市場が大きく拡大することは考えにくく、会社の規模をこれ以上拡大するのは最適ではない」としながらも「現場作業者の育成を進めるとともに、生産効率を高めることで企業として成長したい」との考えでさらなる前進を目指している。

© 株式会社鉄鋼新聞社