金属行人(4月5日付)

 晴天続きだった東京都心の空模様は、予報によれば一両日で崩れるそうだ。上空を流れる強い偏西風で高気圧や低気圧が早く移動するこの季節ならではの特徴から「春に三日の晴れなし」との通説からすれば、これまでの行楽日和は十分過ぎるぐらいだったかもしれない▼都心の桜の名所では、木々の間から建設中の高層ビルやクレーンが顔をのぞかせる一方、下町風情あふれる商店が並ぶ通りや住宅街では、足場が組まれた構造物の姿も見受けられる。短い周期で移ろう春の天気とは対照的に、建築需要の底堅さを象徴する景色の一つとも言えよう▼一年を通じて過ごしやすい温度帯で、昼夜で高低の差があまりない常春の気候が続けばと感じながら花見に繰り出す人も少なくないだろう。低迷から時間がかかった中で回復する昨今の景気動向なだけに、「適温」への憧れはただ言葉だけでなく、当事者たちの切実な思いが込もる▼とはいえ、いつか終わりは来るもの。「散りゆく桜もまた良し」。最後まで趣ある楽しみ方に考えを巡らせるのも日本ならではだろう。決して派手さはないが、繊細でほんのり甘い桜の香りそのままに、じわっと体感できる好況の訪れを期待したい。

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