米ロ首脳会談、即興提案も遠い道のり

By 太田清

2017年11月11日、ベトナム中部ダナンでのAPEC首脳会議の記念撮影で、言葉を交わすロシアのプーチン大統領(左)とトランプ米大統領(タス=共同)

 ロシアの米大統領選介入疑惑や、英南部の元ロシア情報機関員襲撃事件などを受け、米ロ関係が緊張する中、側近から「祝福するな」とのアドバイスを受けていたにもかかわらず3月20日、プーチン大統領に電話し、ロシア大統領当選を祝ったトランプ米大統領だが、この電話会談で、プーチン氏をホワイトハウスに招き首脳会談を行うことを提案していたことが5日までに、明らかになった。 

 米NBCテレビ(電子版)は、トランプ氏の提案について「ホワイトハウスの側近や国務省高官の不意を突くような行為で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談を受け入れた時と同じぐらい唐突だった」と指摘した上で、「ロシアのみならず同盟国にも(ロシアの行動の合法性を認める)間違ったメッセージを送った」と批判した。 

 電話会談直後に、トランプ氏は記者団に「遠すぎない将来に」プーチン氏と直接会談する意向があることを説明したものの、プーチン氏への提案には触れていなかった。しかし、2日になりロシア側が電話会談の内容を発表。タス通信によると、ウシャコフ・ロシア大統領補佐官は、提案を受けたものの現在の両国関係の元では「首脳会談の開催を協議するのは困難だ」と説明。ホワイトハウス側も渋々ながらサンダース報道官が会見で事実関係を認めた。

 トランプ氏の即興の会談提案にはロシア側も当惑したようだ。ロシアの保守系ネットテレビ「ツァーリグラードTV」は、プーチン氏がワシントン招待を拒否したとした上で、「米国が計画していたロシア外交官の大量追放措置について、電話会談でトランプ氏はおくびにも出さなかったものの、プーチン氏は既にロシア情報機関を通じて知っていた」ことにより、米国の「わな」に陥らずに済んだと報じた。 

 電話会談から1週間もたたないうちに、トランプ大統領は元情報機関員襲撃事件への対抗措置として、米国駐在のロシア外交官60人の追放と、シアトルのロシア領事館閉鎖を命令。また、トランプ氏は欧州連合(EU)などの同盟国にも働き掛け、結果的に約30の国・機関がロシア外交官追放を決定した。もし、プーチン氏が訪米の求めに応じていたら「トランプ氏の(ロシアへの)不法行為を認めることになる」というわけだ。 

 いずれにしろ首脳会談開催に前向きなのはロシア側だろう。ウクライナ南部クリミア併合、ウクライナ東部への武力介入などで経済制裁を受け、シリアのアサド大統領への肩入れや襲撃事件などでさらに孤立を深めるロシアにとり、米国との首脳会談は国際協調姿勢を示すまたとない機会となるだろうし、協力関係を探ることで制裁解除に向けた道筋を見つけられるかもしれない。ウシャコフ補佐官は「全てがうまくいけば」今年後半にも首脳会談が開かれることに期待を示した(ワシントンで行うとは言わなかったが)。 

 一方、オバマ政権時の駐ロ米大使だったマイケル・マクフォール氏はNBCテレビに対し「伝統的に、ホワイトハウスでの首脳会談は大きな(外交政治)イベントのために用意されるものだが、トランプとプーチンが何らかの成果に向け協調しているかどうかは明確でない。では、会談の目的は何なのか」と疑問を呈した。 

 米ロ両首脳は昨年11月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれたベトナムで短時間の会話をしたが、正式会談は見送られた。APECや20カ国・地域(G20)首脳会合のサイドラインでの会談は別にしても、双方の国を訪れての首脳会談はそう滅多にあることではなく、トランプ大統領の1期目に実現しない可能性も出ている。 (共同通信=太田清)

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