【新入社員のための鉄鋼基礎講座(1)】鉄の魅力、さらなる可能性も

 仕事をするには豊富な知識を身に付けることが重要だ。「知っている者が勝つ」という言葉もある。知識から知恵や工夫が生まれ、仕事の付加価値が生み出されてくる。

 きょうから、新入社員の皆さんにとって役に立つと思われる鉄鋼業界の基礎知識を連載で掲載する。新たに仕事が変わった読者各位にも、改めて業界知識を整理する機会にしていただければありがたい。

 まずは鉄という物質や鉄鋼業の魅力、続いて鉄鋼業界の現状や仕組みの基本を説明する。また、鉄鋼の価格がどう決まるのか、商流(取引の流れ)がどうなっているのかについても触れていきたい。(一柳 朋紀)

 わが国の鉄鋼業は出荷額(国内向け、輸出向けを合わせた製造品出荷額)が18兆円、雇用数が21万人に達する一大産業となっている。製造業全体の製造品出荷額は313兆円。その中で18兆円を占める鉄鋼業は、産業別で見ると4番目の位置付けだ。

 1位は自動車メーカーを主体とする輸送用機械器具製造業で65兆円。2位が化学工業の29兆円、3位が食料品製造業の28兆円で、それに続く4位が鉄鋼業となっている。

 資源を持たないわが国にとって、鉄鋼業は外貨を獲得する代表的産業の一つでもある。鉄鋼輸出額はおよそ年4兆円程度となっており、2011年から14年までは自動車に次ぐ2位。15年は自動車、半導体等電子部品に次ぐ3位だった。

 鉄(鋼)は鉄鉱石から造られるが、過去に造られた鉄がリサイクル循環の中で回収された鉄スクラップから造られるものもある。今は世界で鉄スクラップから造られる鋼材は約3割にとどまるが、これから鉄スクラップの蓄積が進んで発生量が増える中で、いかに鉄スクラップを多量に活用して高級な鋼材を製造していくか、が大きなテーマになっている。

 世界の大きな流れとして、低炭素社会から脱炭素社会に向かっていくのは確実だ。そうした中で、CO2排出量削減への一段の対応は鉄鋼業が直面する課題の一つと言える。業界筋の推計では、35年には世界の半分の鉄が鉄スクラップから造られるようになる、と考えられている。

 今回は初回なので、鉄という物質の魅力にも触れてみたい。

 第一は「地球は鉄でできている」ということ。重量ベースで鉄は地球の約35%を占め、すべての元素の中でトップだ。

 第二は「鉄は他の元素と結び付く優れた親和性を持つ」こと。鉄にちょっと他の物質を混ぜればいろいろなものができる。

 読者各位の体の中にも鉄はある。鉄分をとることを意識している読者も多いと思うが、鉄とタンパク質が結び付いたのがヘモグロビン。鉄は、体の隅々まで酸素を運んでいる重要な役割を担う。人間の血液が赤いのは鉄だからと言える。

 第三はこの親和性と関係するが「鉄は変幻自在」ということ。これは「相変態」あるいは「固相変態」と言われる性質。普通、物質は固体から液体、液体から気体に変わるときに結晶構造が変化する。ところが鉄は、固体の状態でも温度が変わるだけで結晶構造が変わる。こういう性質は鉄だけが持っている。

 普通、物質は温度が上がると体積が増える(膨張する)が、鉄は温度を上げていくと体積が小さくなる領域がある。その領域で親和性が高い性質を利用して、マンガンとかニッケルとか他の金属と結合させるようにして造り込みを行うことができる。

 第四は「切断や溶接など加工が容易」なこと。工業製品として広く使われるには、加工のしやすさがポイント。金属の中でガス切断ができるのは鉄だけだ。

 第五は「磁石にくっつく」こと。だから選別ができ、リサイクルがしやすい。常温で強磁性がある金属は鉄とニッケルとコバルトだけだが、ニッケルとコバルトは存在する量が非常に少ないので高価。広く使われる物質としては、おのずから鉄が現実的な選択となる。

 いろいろ考えてみると、人類が鉄を広く使うのは歴史の必然だったように思えるし、今後もそれは変わらないのではないか。

 「われわれは、鉄の持つ特性のうち、まだ2割しか利用していない」。鉄の技術者からは、そうした指摘もある。鉄の理論強度は最大10ギガパスカルで、大学の実験室ではそのレベルの材料が造られているが、今のところ工業生産として成り立つのはハイテン(高張力)鋼板やホットスタンプ材と呼ばれるもので1・5~2ギガパスカルの強度が最高。理論的には、あと8割の活用代、伸び代がある。そうした意味で、鉄はまだまだ可能性を秘めていると言える。

© 株式会社鉄鋼新聞社