【現地ルポ】〈JX金属商事のタイCC「マテリアルズ・サービス・コンプレックス・タイランド」〉伸銅品など非鉄加工で販売増加 サービス向上へ表面処理薬品なども拡販

 JX金属商事株式会社のコイルセンター(CC)「マテリアルズ・サービス・コンプレックス・タイランド」(MSCT、社長・篠田次郎氏)は、金属材料のアセアン地域の前線供給基地だ。JX金属グループのネットワークを生かし、主に日本から調達した伸銅品、特殊鋼、アルミの製品および現地でのスリット加工品を販売している。この数年間、コイルセンターとしての機能に加え、精密加工部品、表面処理薬品、化学品などの販売からリサイクル原料の回収までを一括対応するなどのサービス向上を追求するMSCTの足元の取り組みを取材した。(タイ発=遊佐鉄平)

 首都バンコクから東南方向に120キロ。タイ最大の港湾であるレムチャバン深海港までは30分ほどに位置するピントン2工業団地にMSCTは拠点を構える。敷地面積は約6600平方メートル。営業機能を持つMSCTとその完全子会社でコイルセンター機能を持つMSCTコイルセンターの2法人が一体経営されている。

 MSCTは、車載関連を中心に急伸してきたタイ市場およびその周辺諸国での顧客ニーズに対応するため2014年に設立されたコイルセンター。設立当初は、コルソン合金、りん青銅、黄銅などの銅合金条の主力拠点であるJX金属倉見工場(神奈川県高座郡寒川町)の〝下工程拠点〟としての役割がメーンであった。その後、多岐にわたる伸銅品、特殊鋼、アルミなどの顧客ニーズに対応して販売を拡大してきた。その結果、足元のJX金属材の比率は50%程度となっている。

 07年に開設したJX金属グループのマレーシア・ジョホールバルに位置するコイルセンター「マテリアルズ・サービス・コンプレックス・マレーシア」とは、販売、生産両面から連携を強化しており、東南アジア全体における販売・デリバリーネットワークの充実を図りつつあることは、MSCTの強みとなっている。また材料にとどまらず、JX金属グループが日本や中国華東地区で生産する精密加工部品などの拡販も推進しており、JX金属グループにおけるアセアン地域販売拠点としての期待値は高い。

 販売先はコネクタやハーネス、端子を製造する部品メーカー向け中心だが、アセアン地域の自動車工場といわれるタイに立地している関係から、車載向け比率は6割に達する。日系自動車メーカーの厳しい品質要求に応えるべく、JX金属倉見工場の指導により、高い品質保証体制を有しているのがMSCTの特徴である。

 MSCTの主力加工設備は2基のスリッター。板厚0・5ミリ以上の厚物材の加工に適した1号スリッターと、最薄0・08ミリまでの加工が可能な2号スリッターが並んで配置されており、顧客からの要求品質に応じてスリッターを使い分けている。特に車載関連顧客から生産性アップのための大型コイル化のニーズが強く、大型コイルスリット設備対応やコイルの端部を溶接でつなぎ合わせて長尺化を可能とするマルチコイルラインも導入した。

 設備改造による受注範囲の拡大を進める一方で、前述した品質保証体制整備に加え、生産性の向上や安全管理にも力を入れてきた。JX金属倉見工場からの定期的な現地指導を含めた包括的技術指導は設立以来続いており、個々のオペレーターのスキル、管理レベルは上がってきている。段取り替え時間の短縮などの作業効率の改善活動に取り組むとともに、安全面ではグループで発生したヒヤリ・ハット案件を現場スタッフ全員で共有している。

 17年の売上高は、増販に加えて銅価高などの影響を受けて前年比26%増の4億7千万バーツとなり、設立以来過去最高を記録した。18年は伸銅品、特殊鋼ともに日系メーカーの供給タイトな状況が続く見通しであり、適正在庫確保と安定供給が喫緊の課題。現地スタッフから日本人駐在員一丸となり、材料確保の調整に奔走している。同時にタイに進出しているメリットを生かし、タイや周辺国のメーカー材の調達も絡めつつ、販売数量増を目指す。

 こうした中、「中長期的に見れば、東南アジアの自動車生産集積基地であるタイでは、今後もハイブリッド車を中心としたエコカー現地生産が確実に増えていく見通し。それを見据えて車載用電子部品メーカーの進出も続いており、金属材料の需要は確実に増えていくとみている。民生向けもスマートフォン関係だけでなく、これからはIoTの拡大に伴い通信用部品需要も増えると期待している」(不破康介ディレクター)として、既存アイテムの拡大に加えて、高付加価値製品の取り込みを強化していく。

 一方で、「JX金属グループの流通部門としての強みを生かし、顧客のさまざまなニーズを吸い上げ一括提案などのサービスの差別化、向上に努めていきたい。めっきの後処理に使用する防錆剤といった表面処理薬品など、中長期的には金属材料以外の販売比率を2割程度まで高めたい」(同)という方針を示している。

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