ノビチョク襲撃、初の「犠牲者」

By 太田清

 英南部ソールズベリーで3月4日に起きた元ロシア情報機関員セルゲイ・スクリパリ氏(66)らに対する神経剤襲撃事件で、初の〝犠牲者〟が出た。スクリパリ氏が飼っていた黒いペルシャ猫1匹と2匹のモルモットで、ロシアで開発されたとされる最強の化学兵器「ノビチョク」で汚染された恐れがあるとして、警察当局に封鎖されていたスクリパリ氏の自宅に残されていた。 

 最近になり、獣医らが自宅を訪れ調べたところ、モルモットは水を与えられなかったため脱水症状で既に死んでいた。また、猫は生きていたが栄養不良で、英国の化学兵器研究機関に運ばれたものの「ひどく苦しんでいる状態」だったことから安楽死させられた。英紙デーリー・ミラー(電子版)が伝えた。 

 ノビチョク汚染の恐れがあったことから、ペットの死体は即座に焼却処分されたという。 

英南部ソールズベリーで元ロシア情報機関員の自宅を警備する警察官=3月6日(ロイター=共同)

 これに先立ち、襲撃事件への関与を否定しているロシア外務省のザハロワ情報局長は4日、「ペットに関する情報は捜査の手助けになるはずだ。もし、スクリパリ氏が自宅で神経剤により襲撃されたのなら、ペットも被害を受けているはずだからだ」と主張。英国側がペットに関する情報を隠している可能性を指摘していた。タス通信が伝えた。 

 BBC放送などは、英捜査当局がスクリパリ氏の自宅ドアに神経剤が付着しており、同氏らが自宅で神経剤に接触したとみていると報道。今回、猫が生きていたことが確認されたことで、ロシア側は今後、英当局の情報の信頼性に疑問を投げかけるとみられる。しかし、ペットの生き死にさえも英ロの論争の材料にされるとは、何とも悲しい話ではある。 

 肝心のスクリパリ氏は依然として重体だが、状態は安定。共に被害に遭った娘ユリアさん(33)は5日、「1週間ほど前に意識を取り戻し、日に日に元気になっている」との声明を、英警察を通じ発表した。 (共同通信=太田清)

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