“北の韋駄天”ハム西川が語る盗塁の奥深さと危険察知のバロメーター

日本ハム・西川遥輝【写真:荒川祐史】

6年間で182盗塁、成功率85.8パーセントで2度の盗塁王

 北海道日本ハムの西川遥輝外野手は昨季39盗塁に成功し、2014年シーズン以来、2度目となる盗塁王に輝いた。2012年の1軍デビューから抜群の走力を武器に、6年間で通算182盗塁、成功率85.8パーセントを誇るスピードスターでも「走れない」という対戦相手もいる。NPB屈指のリードオフマンが明かした、盗塁できない2つのシナリオとは――。

 プロ入り2年目の2012年に開幕1軍入りを果たした西川。この年は7盗塁だったが、13年は22盗塁と数字を重ね、14年には43盗塁でタイトルを獲得。その後も30盗塁、41盗塁、そして昨季は39盗塁で盗塁王に返り咲いた。

「盗塁と走塁に関する映像を用いた研究ですか? 僕はあんまりしないですね。した方がいいと思う。するに越したことはない。それでも、投手の癖を見たり、映像を見たりということはしない。どちらかというと自分の持っている感性だけで(盗塁を)やっています。

 例えば、そこにデータが加われば、良くなる感覚もあります。去年だったら左ピッチャーを相手にあまり走っていないとか、一塁から二塁は盗塁しているけれど、二塁から三塁の盗塁はないとか……。そういうデータをプラスαにしていけば、もっともっと意味のある盗塁が増えてくると思います。 

 二塁から三塁の盗塁に関してはバッターに迷惑をかけてしまうこともあったりするので、あまりトライしていません。後ろを打つバッターとの話し合いにもなると思います」

2度のタイトルホルダー西川が盗塁を研究しない理由

 デビューから昨季までの6年で通算182盗塁を積み上げたが、成功させたほとんどは“生まれ持った感覚”によるものだという。打撃においては、不振時に他の選手のバッティング動画を参考にするという西川だが、走塁に関しての研究はしないという。

「研究をしない理由ですか……。ある程度できちゃっているからだと思います。打つ方に関しては、これだけ頑張っても、これだけの成績しか残すことができていない。そういう思いがある。だから適当にできない。これでもし盗塁が頭を打った時には、無茶苦茶データを使って研究しだすかもしれません」

 天性のスピードと走塁センスで、バッテリーに強烈なプレッシャーをかけてきた西川。盗塁に関して、不振を察知するバロメーターが存在するという。

「盗塁で頭を打つ感覚は、スタートが切れない、とかでしょうね。ある程度スタートが切れれば、自分の中でセーフになるいう確信がある。スタートが切れないとなると、さすがにちょっとまずい。今、どの投手のクイックが早くなっている。研究しなければいけない部分も増えてくると思いますね」

 スタートさえ切れれば、二塁を陥れる自信がある。どうしてもスタートが切れない時――。それは日本ハムのスピードスターにとって黄色信号の点滅を意味する。西川がスタートを切れないパターンは2つ存在するという。

「1つ目は、そのピッチャーのクイックそのものが速い。走ったところでアウトの確率が高いと思えば、僕は走れない。ある程度プレッシャーはかけますけど。それでコントロールが悪くなって、フォアボールになればラッキーだし。まず、それが1つ目ですね」

 2つ目のパターンは“天敵”とも呼ぶに相応しいものかもしれない。

「言葉にすると難しいんですが、独特のタイミングというか、間があるんです。そういうピッチャーも中にはいるんですよね。自分の呼吸と合わないピッチャーが。僕がいつも盗塁に行かないような間でパッと投げられたら、スタートが合わない。何回やっても合わないピッチャーはいるんですよ。苦手な選手ですか? 覚えてないんですよね」

西川が盗塁を試みるときに参考にするのは…

 そう話すと、西川は端正な顔に笑みを広げた。呼吸を読むことができない相手がマウンドにいる場合は、走るタイミングを一向につかめないという。それでも走れば、盗塁成功率低下というリスクが生じることになる。 

「盗塁に関しては、ほとんどキャッチャーは考えません。ピッチャーで決まります。盗塁ってピッチャーが少し速いクイックで投げて、キャッチャーの送球が決まれば、だいたいアウトになるものです。クイックが遅くなった、変化球を投げるタイミング、そういうちょっとした隙を狙うしかない。僕は絶対にアウトになりたくないです。なので、そういうタイミングを狙っている。配球も読みますけれど、基本的にはピッチャーのクイック次第ですね」

 捕手の送球は盗塁企図の参考材料にはならない。あくまでピッチャーのクイックの技術。西川は自らの哲学をこう説明してくれた。今季はプロ野球11球団の全試合(一部を除く)を放送する「DAZN」のアンバサダーに就任。志士に扮してテレビCMにも登場した。6日のロッテ戦では今季初盗塁も記録。西川の韋駄天ぶりに、今季はこれまで以上の注目が集まることだろう。

「何をするにも構えというものが大事だと思います。ほとんど構えで決まると思うんです。僕と中島(卓也)さんとでも構えは違う。リード幅も違う。もっと細かく言えば走路も、スライディングする場所が手前か奥かとか、いろいろ違うんです。盗塁と一言で言ってもいろいろです。そういう細かいところまで見ることは難しいかもしれませんけれど。そこまで見られたら、盗塁チェックもまた楽しいものになると思います。僕だけじゃなくて、いろいろな選手の構えを見てもらいたいですね」

 打撃のみならず、盗塁も構えが全て――。いかに一塁からバッテリーにプレッシャーをかけるか。リード、構え、スライディングの位置という盗塁成功に至るまでの奥深さを、西川は走りでファンに伝えようとしている。

(「パ・リーグ インサイト」編集部)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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