【新入社員のための鉄鋼基礎講座(3)】鋼材価格の決まり方は多様

 鋼材価格の決まり方は多様だ。ヒモ付き価格は個社ごとの相対交渉であり、価格の構成要素や考え方が必ずしも同じではない。店売り価格も、一律とはなっていない。株式のように取引所や市場で取引されているわけではないため一物一価ではない。

 ヒモ付き契約における鋼材価格は、鉄鋼メーカーとユーザーとの個別交渉で決められている。契約期間は3カ月、6カ月、1年などとなっている。ヒモ付きは長期安定供給に重点を置いた取引であり、鉄鋼メーカー・ユーザー双方とも安定的な価格変動を望んでいる。ヒモ付き価格の改定幅(値上げや値下げの幅)は、店売り価格や鋼材市況に比べて、緩やか(小幅)な傾向がある。

 2010年度から、高炉メーカーが購入する主原料価格は、四半期(3カ月)ごとに変動することになった。資源サプライヤーが、資源価格が大きなトレンドで見れば右肩上がりで推移すると予測されることを背景に、従来の1年契約から四半期契約に変更する意向を示し、鉄鋼メーカーはそれを受け入れることを余儀なくされた。

 従来から、輸出販売は四半期ごとの価格商談となるケースが多かったが、2010年度以降、国内販売においても価格やコストを考える上で四半期(3カ月)が一つの区切りとなって今に至っている。

 ただ、主原料コストだけで鋼材価格が決まるわけではない。原料コストは鋼材価格に占める比率が高いので注目されやすいし、最近はスポット原料価格が短期間に大きく変動する(ボラティリティが高い)ので、鋼材価格への影響度合いが高まっている。

 ヒモ付き価格は原料価格動向に加え、鉄鋼メーカーと各ユーザーとの取引実績の濃淡、納入シェア、他のコスト、在庫水準を含めた需給、グローバル供給力を含めたデリバリー、品質面など商品価値、国内外の鋼材価格差、などを総合的に勘案して個別に決められる。

 なお自動車や電機メーカーでは、集中購買というやり方で鋼材調達をしているケースがある。これは大手ユーザーが、系列部品メーカー向けの鋼材も含めてまとめて集中的に鉄鋼メーカーから鋼材を大量調達し、ティア1などの部品メーカー向けに鋼材を支給する形態。そこでやり取りする鋼材単価を「集購価格」とか「支給価格」と呼ぶ。

 ヒモ付き価格と違い、店売り価格は鋼材の需給変動や鉄スクラップ価格変動などを、より敏感に反映させる形で鉄鋼メーカーが決める。鉄スクラップの価格変動などが激しい場合、毎月のように店売り価格が改定されることがある。鉄鋼メーカーとユーザーとの価格交渉などは行われない。鉄鋼メーカーは価格決定を商社や鋼材販売業者などに伝える。(一柳 朋紀)

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