【住友金属鉱山社長交代会見の要旨】野崎次期社長「トップから現場まで戦略共有」、中里社長「自由闊達な風土継承を」

 住友金属鉱山は6月下旬の株主総会後の取締役会で中里佳明社長が代表取締役会長に就き、野崎明取締役常務執行役員が社長に昇格する人事を決めた。新体制の下で長期ビジョンに掲げる「世界の非鉄リーダー」、「日本のエクセレントカンパニー」の達成を目指す。会見要旨は次の通り(敬称略)。

――在任期間の振り返りを。

中里「この5年間、社業は決して安定していたとは言えないが、ステークホルダーの皆様の協力を得て課題解決と成長に向けた戦略を進めることができた。社長就任時に大型案件の推進・整理、材料事業の構造転換、本社部門のグローバル化対応という三つの課題を掲げた。大型案件ではタガニートの円滑な立ち上げ、モレンシーの権益追加、コテ金鉱山の参画を進めた一方、ゴロ、ソロモンの撤退を決めた。材料事業は電池材料、結晶材料への集中投資などで機能性材料を中心とする事業構造に転換するとともに、主要顧客との信頼構築に努めた。本社部門では統合報告書の発行、IFRSへの移行などを進めた。総じて言えば成長戦略に継続的に取り組むとともに、問題を先送りせず、負の遺産をある程度整理できたと自己評価する」

――社長在任時に一番うれしかったことは。

中里「就任時に厳しい状況にあった材料事業について、最近株主から『時間が余ったら将来どうするのかと質問する程度だった事業を、会って真っ先に聞きたくなるほど中身を変えたことに敬意を表する』と言われたこと。リードフレーム事業の売却は顧客や従業員に厳しい対応をお願いせざるを得なかったが、機能性材料中心の構造にシフトしたことは間違っていなかったと思う」

――課題について。

中里「人材育成、シエラゴルダといった課題は残るが、企業がゴーイングコンサーンである以上、常に課題は存在する。だからこそ後を託せる、信頼できる後継者に任せるというつながりが最も重要だと考えている」

――野崎氏を後任に選んだ理由について。

中里「冷静沈着で幅広い経験、しっかりした判断基準を持ち、顧客や従業員からの信頼が厚い。昨今は事業環境の変化が激しく、従来と同じやり方で成功が担保される状況ではない。いかに皆がアイデアを出し、周囲をあっと言わせるすごみのある戦略、周囲をワクワクさせる戦略を実行していくかにかかっている。だからこそ私は社内で自由闊達な風土が大事だと強調してきた。野崎氏はこの重要性を理解し、継承してくれると期待している」

――抱負を。

野崎「大変な重責に身の引き締まる思い。社長が常に言っているコミュニケーションと徹底的な思索、そこから得られる納得感という考え方は日々の仕事はもちろん、今日のような環境変化の激しい時期の経営にはとりわけ必須だと考える。私もこれを引き継ぎ、トップから現場までが当社の長期ビジョン・戦略を具体的に理解・共有し、その上で環境変化に機敏に対応して施策を実行するプロアクティブな動きが目立つ経営を目指したい。住友の源流事業を継承しているという誇りと自覚を忘れず、日々の業務に精励し、長期ビジョンに掲げる世界の非鉄リーダー、日本のエクセレントカンパニーの実現を目指す」

――社長の打診があった時のことは。

野崎「昨年末に打診があり、数日間じっくり考えた。悩んだが、私にそういう話をいただけるということは意味があることだろうと考え、引き受けた」

――どういった経験を積んできたか。

野崎「財務・経理が長い。30代でモレンシー鉱山やオランダの化学大手との合弁会社に関わり、海外でのビジネス経験を積めた。40代ではコーラルベイやゴロなどニッケルの大型プロジェクトに初期段階から関わった。また、ニッケルの営業・原料部長として営業を初めて任され、営業というのはモノやサービスを売るだけではなく、世代を超えてお客様と信頼関係をやりとりするのだということを学んだ。これまでの経験の財産と言えるのは人脈、ネットワーク。これは今後も生かしたい」

――経営環境をどうみているか。

野崎「昨年から非鉄価格が回復し、将来的に需給バランスが不足に向かうと言われる金属がいくつかある。一方で資源開発を進めるにはまだ厳しい環境だ。金属価格や為替に一喜一憂せず、長期的な視点で仕事をしていくつもりだが、業界の状況は天気で言えば曇りぐらいかと思う」

――鉱山投資の考え方は。

野崎「最終的には投資額、操業費も含めコスト競争力があるかどうか。ただ、資源開発のリスクも増している。リスクファクターを見極める力が重要だ。また、開発をいかに目論み通りに進める力をつけるかも必要だと思う」

――自身に課す課題、あるいは長期ビジョンの達成に向けて必要なことは何か。

野崎「まだ確たるものがあるわけではないが、資源、製錬ではニッケルをいかに強化していくかが一つ。材料はこれから勉強する必要があるが、将来を見通しにくい社会環境にある中、どういった方向に進むかをじっくり議論し、自分たちの向かう方向が間違っていないという納得性と確信を持てる戦略を進めたい」

© 株式会社鉄鋼新聞社