【マレーシア鉄鋼市場、中国企業が触手】買収や新製鉄所建設、過剰能力の恐れも

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 中国企業によるマレーシア鉄鋼市場への進出が活発化している。習近平政権が掲げる「一帯一路」戦略の一環とされ、マレーシア地場ミルの買収や製鉄所新設といった動きが顕在化してきた。ただ鉄鋼需要が少ないマレーシアで中国勢の増産が進めば、東南アジアでの過剰能力を誘発させる懸念が強まる。(黒澤 広之)

中国・建龍、イースタンスチール買収で合意

 南シナ海に面したマレーシア東岸のトレンガヌ州ケママン。ここに2014年末の稼働から1年も持たず休止したままの小型高炉がある。年産70万トンで半製品のスラブのみを造るイースタン・スチール(東鋼集団)だ。

 イースタン・スチールはマレーシアの鋼管メーカー、ヒアップ・テック・ベンチャー(HTVB)が主導し、技術協力を受けた中国首都鋼鉄集団と合弁で立ち上げたが、深刻な鉄鋼市況悪化で資金繰りが行き詰まり、15年10月には稼働停止へ追い込まれた。このイースタン・スチールを民営では中国2位の大手鉄鋼メーカー、北京建龍重工集団が、傘下の山西建龍宝業を通じて買収することで合意した。

 従来のイースタン・スチールの出資比率はHTVBが55%、首鋼集団系の投資会社であるオリエント・スチール・インベストメントが40%、チャイナコ・インベストメントが5%。このうちオリエントの全保有株とHTVBの20%分を建龍が取得する。売買が完了すれば建龍が60%の株式を握り、イースタン・スチールは地場系から「中国系」となる。イースタンは建龍の資金力を活用し、7月末までにスラブの生産を再開する計画だ。

 イースタンには一時、鞍山鋼鉄集団が関心を示し、首鋼から株式40%分を買い取ることで合意したが実現に至らなかった。今回はHTVBの出資が過半を割り込むスキームで、競争力ある民営の建龍が出てきた点でも状況が異なる。現在、スラブは世界的に不足しているだけに、イースタンが実際に再稼働するのか注目されそうだ。

中国企業、350万トンの新製鉄所を稼働

 トレンガヌ州の南にあるパハン州クアンタンでは、昨年末に広西省チワン族自治区の企業、広西北部湾国際港務集団と広西盛隆冶金の合弁事業「アライアンス・スチール、中国名・連合鋼鉄(大馬)集団公司」が棒鋼ミルの稼働を開始した。

 アライアンス・スチールは年産能力350万トンの高炉一貫製鉄所で、棒鋼、線材、H形鋼を造るインフラ鋼材の生産拠点。高炉は2基とされ、日本の商社幹部によると今月中にも商業生産に入り、認証取得を経て6月ごろにも市場への流通が本格化すると見込まれている。

 製鉄所が建てられたのはマレーシア企業と中国企業が共同開発した工業団地「MCKIP」で、広西北部湾国際港務集団は中国側の主要出資者。中国はクアンタン港の拡張プロジェクトにも関わっており、MCKIPはこれと連動した事業と言える。

 ただ年間1千万トンしか鉄鋼内需がないマレーシアで、350万トンもの製鉄所は明らかに過大な能力。アライアンス・スチールは東南アジアの周辺国や東アジアへも輸出していくとしており、条鋼類の需給バランスに影響を及ぼしそうだ。

 このほか実現性は不透明ながら、ボルネオ島のサワラク州サマラジュ工業団地では河北新武安鋼鉄集団文安鋼鉄が中冶海外工程(MCC)と共に500万トンの製鉄所を建設することで16年に州政府と覚書(MOU)を交わした。買収絡みでは、経営破たんし稼働休止が続く電炉・熱延メーカー、メガ・スチールをめぐっては、オーナーのライオン・グループ総帥、ウィリアム・チェン氏に接触する中国ミルの動きが再び活発化しているという。

 マレーシアは華僑系の鉄鋼メーカーが多く、HTVBやライオン・グループは中国企業との関係がかねてから強い。今のナジブ政権が中国重視の外交姿勢を強めていることも、中国勢の動きを後押ししており、自動車業界では中国民営大手の浙江吉利集団がマレーシアの国民車メーカー、プロトンの株式49・9%を取得した。

 親中国路線を進めるナジブ首相には都市部を中心に国民の不満が広がっているとされ、近く行われる総選挙では、その審判が下ることになる。選挙結果次第では中国勢のマレーシア展開が加速するのかブレーキがかかるのか、左右されそうだ。