ロシアなめきったトランプ大統領

©株式会社全国新聞ネット

太田清

47NEWS編集長

太田清

47NEWS編集長

共同通信社入社後、広島支局、大阪社会部、外信部、経済部、ベオグラード支局、モスクワ支局、ローマ支局などを経て2016年より現職。イトマン事件、阪神大震災、コソボ紛争、ユーゴ空爆、モスクワ劇場占拠、アフガン紛争、ギリシャ財政危機、東日本大震災などを取材。

太田清の記事一覧を見る
ホワイトハウスでのトランプ大統領=11日(UPI=共同)

 トランプ米大統領は11日、シリアの化学兵器使用疑惑を受けた米国の軍事行動について「ロシアはシリアに向け発射されたすべてのミサイルを撃ち落とすと公約しているが、ロシアよ、準備せよ。性能が良くて新しく、スマートなミサイルが飛んでくるからだ」とツイートした。さらに「現在の米ロ関係は冷戦時代を含み、史上最悪だ。そんな必要はない。ロシアは経済でわれわれの助けを必要としているが、お安いご用だ。軍拡競争をやめないか?」とも続けた。 

 米CNNテレビが「トランプ、ロシアをあざける」との見出しで発言を伝えたように、ツイートはロシアが米国のシリア攻撃に対し有効な手を打てないことを見越した上で、ロシアを挑発した相当、シニカルな発言だと受け取られている。一語一句が相当の毒を含んでいると言ってもいい。 

▽迎撃できない 

 「ロシアよ、準備せよ」の件は、駐レバノンのロシア大使アレクサンドル・ザスイプキン氏がレバノンのテレビ番組で「米国による(シリアへの)攻撃があれば、ミサイルが撃ち落とされるだけでなく、ミサイルを撃ったもの(米国の艦船)も攻撃対象になる」と警告したことを受けたものだが、実際にロシアは米国の巡航ミサイル、トマホークなどを迎撃できる対空ミサイルをシリア領内のロシア軍基地に配備している。 

 ミサイルシステムS400とS300で、特にS400は最大探知距離600キロ、最大射程距離400キロという長距離の迎撃が可能な点が特徴。航空機のほか、弾道ミサイル、巡航ミサイルに対応可能で、そのカバーエリアはシリア領土の8割近くに達するという。 

 ロシアの保守系ネットテレビ「ツァーリグラードTV」は同国の軍事専門家の話として、S400はもちろん、S300も容易にトマホークを撃墜できるが、大量のミサイルが飛来した場合、対応できない可能性を指摘。しかし、その場合でも、ロシアの対艦ミサイルにより、トマホークを積載した米駆逐艦を攻撃することで対処できるとしている。駆逐艦が沈没すれば、もう巡航ミサイルを撃てなくなるとの意味だ。 

 しかし、トマホークの撃墜、ましてや駆逐艦への攻撃は、米国に対する戦闘行為と受け止められるのは間違いなく、ロシアがシリア防衛のため、そこまで対立をエスカレートさせる可能性は低いというのが一般的な見方だ。実際に昨年4月の米巡航ミサイルによるシリア攻撃の際も、ロシアは既にS300、S400を配備、米国から事前に攻撃の通告を受けていたにもかかわらず、迎撃には使用しなかった。軍事情報の分析で定評のある米サイト「ザ・ドライブ」は、ロシアが反撃する場合でも、米軍を直接攻撃するより、米国が支援するシリアの反体制勢力拠点をたたく公算が大きいと伝えた。 

▽助けて 

 「経済で助けを必要としている」の件も、ロシアにとり、今ほどこの言葉が当てはまるときはないのではないか。ピーク時と比べ下落した原油価格とウクライナ情勢を受けた欧米の経済制裁で、ただでさえ低迷するロシア経済だが、米政府が6日、発表したシリアへの武器売却や米国へのサイバー攻撃などを理由とした追加制裁の結果、ロシアの株式市場が暴落したほか、通貨ルーブルは対ドルで10日、一時63ルーブル台に下落し、約1年4カ月ぶりの安値をつけた。特に国内最大手のアルミニウム製造「ルスアル」など、政権に近い「オリガルヒ」と呼ばれる実業家の所有する企業が大きな打撃を受けている。 一部報道によると、さらに米金融機関によるロシアの国債など公的債務取引を規制する追加制裁案も俎上(そじょう)に上っている。

 株価下落は実体経済を低迷させるとともに、通貨安はインフレを亢進させ、国民の政権への不満を呼びかねない。問題解決のために一番簡単なのは、米国による制裁解除で、米政権さえその気になれば(議会の同意は必要となるものの)「お安いご用」というわけだ。 

 ▽体力

 「軍拡競争」をやめようとの呼び掛けも相当なアイロニーを含んでいる。プーチン大統領は今年3月の年次報告演説で、議員ら約1000人を前に米国のミサイル防衛網を突破できる新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの開発に成功したと強調。コンピューターグラフィックスでロシアのミサイルがフロリダを攻撃する挑発的な映像も使い、今後も軍事力で米国と対抗すると明言したが、低迷した経済で軍事支出増が継続できるのか疑問視する声は強い。また、開発に成功したとする新兵器群自体も「過去の新兵器構想の付け焼き刃」「誇張」などの指摘が出ている。もともとロシアの国内総生産(GDP)は米国の7%、国防費は10%程度しかなく、冷戦時代以上の〝体力差〟があり米国との軍拡競争に耐え抜くだけの力がないことは、誰の目にも明らかだ。 (共同通信=太田清)