日本代表、ハリル解任がもたらすかもしれない「好影響」5選

11日、日本代表チームの監督を務めていたヴァイッド・ハリルホジッチ氏が解任された。

筆者は彼が率いていたころからPSGのファンであるし、「ハリルホジッチ思考―成功をもたらす指揮官の流儀」も執筆させて頂いた。

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とりあえずはそういうところからいろいろと察して欲しいが、その立場から「日本代表がハリルホジッチ監督をこのタイミングで解雇したことによるメリット」を5つ考えてみよう。

主力組に危機感が生まれる

今回のハリルホジッチ解任劇の原因は、選手とのコミュニケーションであったと発表されている。田嶋幸三会長と西野朗新監督の認識とは齟齬があるようだが、それはともかくだ。

通常「クラブより大きな選手はいない」と言われる通り、管理側に合わせられない選手は排除されて当然である。

他のクラブに行く権利はあるし、代表から外されても当面生活面に影響があるわけでもない。市場価値や引退後の仕事には関わるかもしれないが…。

今回のことで証明されたのは、日本代表では「選手が結託してコミュニケーション不足を表に出せば、監督のほうが追い出される」ということ。

逆に言えば、主力として使われており現状に不満を持っていない選手は、どうにか反乱を抑えるか、結果で世間を黙らせるしかない。そうしなければ、監督とともに自分の立場も崩される。

ピッチ内だけではなく、ピッチ外でも競争が激しくなるだろう。危機感が高まる。それが田島会長の言う「信頼関係」に好影響があるのかといわれるとアレだが。

監督の給与が抑えられる

先日掲載された「W杯まで半年以内に監督交代した12チーム、その結果とは」を見れば分かる通り、アフリカか中東くらいしかこんなことはしないのだ。

サッカー協会の内部で権力闘争が頻発し、現場とのトラブルは相次ぎ、隠すべき情報は漏れ出し、実力者が一時の感情や趣味で監督の首を飛ばす。そして訴訟になる。

そのような国には基本的に有力な監督が来ることはない。アフリカの国々を見ればわかるが「監督ロンダリング」に近い状況だ。

アフリカの何処かで解任された監督が、他のアフリカの国で指揮を取り、そしてまた短期間で解任される。W杯に行けない国はおおよそそんなサイクルだ。

中東はビッグネームが来るが、それはそれだけの資金力があるからだ。日本にそこまでの金銭的魅力はない。単純な距離で言っても、欧州からはあまりに遠い。

可能性があるのは、クラブからオファーのない日本人監督、協会子飼いの監督、なんでもいいから名を上げたい新人監督、あるいは「完全に終わった監督」と思われている人物。

どれにしても、給与はそれほど高くはならないだろう。その点で支出は抑えられるはずだ。

エジプト代表のエクトル・クーペルも、わずか年8000万円ほどで雇えているのだから。安くても当たることはある。

ファンのメディアリテラシーが上がる

政治の世界では常識である。「本当の意味での中立の報道など存在しない」と。

もちろん、それはサッカーでも同じである。日本サッカー協会に対して礼賛的なメディアもあれば、批判的なメディアもあるのが当然のことだ。

インターネットの世界で「見なければいい」というのはなかなか通用しにくいところだが、最初からスタンスがわかっていれば、ユーザー側から取捨選択がしやすいはずだ。

日本サッカー協会も会社の1つである。さらに取材許可を出す側なのだから、そりゃあ忖度するところも出るのは自然である。

アフリカや中東、東欧などでは「権力側が都合のいい記事を書かせる」ことは日常茶飯事だ。

そして、それに反対する側も、権力側を咎めるためにウソを書くことだってある。

メディアだって人間である。誰かを通して伝えられる限りは絶対的に正しいといえる「真実」はどこにもない。取材をしていても、現実の受け取り方は様々だ。

今回のことは、各メディアのスタンスを明らかにし、サッカーファンの情報処理能力を向上させるだろう。ちなみにQolyはこういうヒネた記事も許してくれるメディアです。

より「個の力」が必要になる

日本の課題と言われるのが「個の力」。それはハリルホジッチ体制のチームだけではなく、他の年代別代表でも、女子でも。以前から誰もが分かっていることだ。

組織というのは個人の集合体であるからして、それぞれの能力がその機能性、応用力を維持できるだけのものでなければならない。もちろん、「個人戦術」も個の力だ。

以前『U-17の2試合で見えた「ハリルホジッチが日本の監督に向いている」ワケ』でも書いたが、筆者は「個の力が望めないからこそ縦に速いサッカーをやっている」と考えていた。

パスをつないで主導権を握っていくサッカーは、それだけデュエルもキックも成功を続けることを必要とするわけで、個人の弱みが出やすい。

特に練習期間が短い代表チームではそうだ。筆者はトゥーロン国際大会のファンなのだが、急ごしらえの「日本サッカー」がどれだけ脆弱かということを嫌というほど見せつけられてきた。

そもそも、もしパスサッカーのほうが個の力を必要としないのなら、強豪クラブほどカウンター、弱小クラブほどポゼッションになっているはずなのだから…。

今後田嶋幸三会長が言う「しっかりボールを繋いでいくということです」が志向されていくのならば、日本の強化には戦術以上に個の力が欠かせなくなる。

その意識があれば、長期的に見れば日本サッカーの根本的な強化に繋がるはずだ。協会がそれを認識していれば、だが。

「直前に監督を代えたら結果を出せる」が日本の強みかも?

監督を代えてすぐにうまくいくチームなど、世界に存在しない…と誰もが思っている。

しかし、それは未来永劫現れないということを意味しない。日本が実はそんなチームである可能性はないか?

個々のエゴが強いチームは、突如やってきた監督の指示がすぐに浸透しないだろう。応用があってもベースが出来ていないチームは弱い。

しかし日本はどうか?個々の応用力はないにしても、監督の言うことはちゃんと聞くことができるだろう。

日本の会社組織や政府を見ればわかるが、同じ体制が長く続くと必ずと言っていいほど腐敗していくものだ。内部から改革をしにくい性質があるからだろうか。

監督が就任してすぐに本番を迎えるなら、内部崩壊をしている暇などない。選手は士気を備えたまま試合に臨めるはずだ。

もしかしたら、「短期的に監督を代えてもうまくいく」のが日本の最大の強みかもしれないのである。

相手がスカウティング出来ない状況を作り、選手は監督の言うことを聞いて動き、奇襲で一発勝利をもぎ取る。そんなパターンだって構築できる可能性がある。

現代のサッカーでは代表チームに裂ける時間が少ない。これからもさらに減少するだろう。したがって、そもそも代表監督に「戦術の積み重ね」を求めるのは難しいのではないか。

そして、ハリルホジッチも1つの形を成熟させようという気はなかったように思う。オーストラリア戦など重要なところにピークを合わせればいいと。

その集大成を見られなかったのは残念だが、過去を懐かしんでいても始まらない。ハリルで行けば勝っていた根拠もなければ、西野朗監督なら負けるという根拠もない。勝てば将来のためになるという確証もなければ、その逆もしかりだ。

とにかく、未来の日本サッカーに幸運が訪れることを祈るのみである。

筆者名:籠信明

福井県と京都府を本拠地として活動。フランス、ポルトガル、アジア、アフリカなどのサッカーが得意分野で、海外ではPSGとヴィトーリア・ギマランエスのファン。「なぜか喋れるライター」として最近バニーズ京都SCのスタジアムDJ、日本代表パブリックビューイングのゲストコメンテーターなども務めている。『ハリルホジッチ思考―成功をもたらす指揮官の流儀』共著。

Twitter: @cage_nob

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