【丸一鋼管、新中期計画始動】〈鈴木博之会長兼CEOに聞く〉収益拡大へ海外増強、M&Aも

 丸一鋼管は4月から「第五次中期経営計画(3カ年)」をスタートさせた。素材高を製品価格に転嫁し切れなかった前中計を踏まえ、新中計では「収益拡大」を最重点課題にしている。新中計の狙いを鈴木博之会長兼CEOに聞いた。(小林 利雄)

――前中計の総括からお聞きします。

 「2015年度からの第四次中計では、17年度(18年3月期)の連結数値目標を売上高1850億円、営業利益225億円、営業利益率12%、ROE(自己資本利益率)6・5%以上などとしてきた。結果、16年度(17年3月期)では売上高1372億円ながら、営業利益245億円、営業利益率17・8%、ROE7・4%と目標を上回ったが、17年度予想数値は売上高1534億円、営業利益196億円、営業利益率12・8%、ROE5・7%と、最終年度に悪化する見込みだ」

丸一鋼管・鈴木会長兼CEO

 「理由は日本国内が原材料の値上がり分を製品価格に転嫁し切れず、スプレッドが大幅に悪化したことが大きい。営業利益率は目標を達成できているが、ベトナム・SUNSCO社は12月決算で赤字を計上しており、早期改善が今後必要だ」

――数値的には課題が残ったが、生産効率化や国内販売拠点強化などの施策が進んだ。

 「国内では、大阪工場の堺工場への集約、丸一鋼販の横浜営業所、北陸営業所の移転拡充などを実施した。海外では15年に買収した米国ポートランドの建築用角形鋼管工場・MOST社の収益貢献や、16年にはインドの自動車用鋼管工場・KUMA社での大型車排気管向け鋼管ミル稼働などのほか、現在進行中だが、メキシコの自動車用鋼管工場・MMX社の鋼管切断工場新設、米ロサンゼルスの建築用鋼管工場・MAC社での製品倉庫建設、MOST社での小径角管工場新設と新中計で効果を期待できる投資を進めている。また新中計の期間では19年稼働のフィリピンでの自動車用鋼管工場の建設を決定し、SUNSCO社での冷延ミル増設も検討中で、新中計期間の投資額は210億円になる。またM&Aなども検討していく」

――新中計策定の基礎となる経営環境について。

 「当面、国内景気に落ち込みはないが鉄鋼需要は増加しない。海外では、米国経済は堅調で緩やかな成長を持続するとともに、新興国も高い成長率が続き、日本からは自動車産業を中心に海外シフトが続く。また同時に、自動車のEV化も進む。そうした中で鉄鋼価格は内外ともに大きな落ち込みはないとの想定だ。その中で直面する課題は(1)収益性の向上(2)労働生産性の向上(3)人材の確保―などだ」

――新中計の目標は。

 「海外での販売量拡大と、国内外での販価回復による売上高増加。国内外でのスプレッド拡大による増益および海外での業容拡大による収益拡大などが目標だ。新中計最終年度の20年度(21年3月期)で売上高1750億円、営業利益240億円、営業利益率13・7%、ROE6・5%、株主還元率50%、社会貢献支出金額年額3千万円ペースの維持などを目標にしている」

――目標達成に向けた取り組みは。

 「国内では高収益体質の維持に向けた営業力の強化、人手不足時代に対応してのAI・IoT活用の生産や事務効率化、設備更新、女性人材や外国人を活用するなど採用や働き方改革などを進める」

 「海外では米国3社での新設・更新設備を活用した生産・販売力の強化・拡充。SUNSCO社の営業力・コスト競争力の徹底した強化策実施。自動車・二輪車用鋼管工場ではインド・中国・メキシコ各工場に加え、フィリピン工場の19年稼働開始による生産拡大。優秀な現地人材の確保とレベルアップなどを進める」

――米国の保護貿易政策や、それに連動するアジア市況の不透明感などあるが。

 「米国は足元で熱延コイルが900ドル以上と、やや異常な状態になっている。そうなれば対米輸出品も25%の追徴課税を払っても輸出できる状態になるので、もう少し沈静化していくだろうが、米国内は当分元気だろう。ベトナムなどアジア市場は各国のセーフガード政策や中国鋼材市況の不透明感などあるが、どのような状況になろうとも、その上下する波の上にしっかり乗っていくのが当社のあるべき姿。波にのみ込まれず浮くことが大切だ」

――労働生産性向上ではAI・IoTの活用を図るというが。

 「設備へのセンサー設置、事務処理システムの導入などを進めているが、まだ多くの企業と同様に革新的な取り組みについては手探り状態だ。ただ従業員の労働時間や人件費当たりの労働生産性向上、環境配慮、エネルギー効率や安全への対応強化などを進めていくにはAI・IoT化は必須。この先数年でかなり進むのではないか」

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