【現地ルポ】〈日軽エムシーアルミナムタイランド 立ち上げから1年、シラチャ工場〉鋳造3ラインで月産1300トン 〝能力増強の認可〟も3月取得

 アルミ二次合金事業で順調に海外事業を発展させている日軽エムシーアルミ。自動車需要が復調傾向にある東南アジアのハブ拠点・日軽エムシーアルミナムタイランド(NMAT)は、シラチャ工場を立ち上げてから約1年が経過した。すでに稼働率7割を超えるという同工場を訪れ、事業の状況を取材した。(タイ・チョンブリー発=遊佐鉄平)

 バンコクから南東へ約110キロ。シラチャ市ボーウィン地区にある「へマラート・チョンブリ工業団地」はレムチャバン深海港からも25キロという立地にあることから、鉄鋼や自動車部品メーカーなどが多数立地している。NMATの本社工場があるウェルグロー工業団地からは1時間以内で行き来できる。タイに数ある工業団地の中から同エリアを選出したのは天然ガスが使用できること、地盤沈下が起こらないことなどが考慮されたようだ。

 シラチャ工場の建設に着手したのは16年2月。環境規制が厳しいウェルグロー工場での能力増強が事実上不可能となったことを受けて、新工場建設に踏み切った。10月に工場の引き渡しを受けて17年4月には量産稼働を開始した。

 シラチャ工場はADC12などダイカスト用合金の製造に軸足を置いている点が特徴の一つ。もともとエンケイのアルミホイール合金の製造販売で事業規模を広げてきたNMATであるが、自動車市場の緩やかな回復や同業の撤退を受けて汎用合金市場に本格参入した。

 工場の敷地面積は2万4064平方メートル。メインファクトリーの溶解鋳造工場と二つの屋根付き原料ヤードなどで構成されている。原料ヤードと溶解工場が一直線に並ぶレイアウトを採用したことで、導線は短くシンプルだ。

 溶解工場の主要設備は、溶解工程に20トン溶解炉・25トン保持炉、鋳造工程は3ライン。原料となるスクラップは、サッシや圧延工場発生屑のほか、鉄が混じったエンジン・機械屑なども多い。溶解温度を調整してアルミのみを溶かし、鉄は炉内に残してワンチャージごとにすべて取り除く。

 溶解炉で成分調整した溶湯は鋳造ラインで長方形に鋳込んだのちに、鋳造機の直下に置かれた水槽で水冷してさらにコンベアーでの移動中に空冷される。冷却された鋳塊は、コンベアーの終着点に設置されたアーム式ロボットによって一つ一つ自動で出荷用パレットに積み上げられる。

 この鋳造ラインは水平式ラインと呼ばれており、揺れによるパレットへの積み込み品質の悪化を防ぐとともに、ピットが不要なことから導入コストを引き下げるメリットがある。日軽エムシーアルミグループでの導入は、シラチャ工場が初めてだ。

 このほか排ガス処理の徹底のため集じん機を2基導入しているが「環境対策を考慮し、通常よりも大きなものを入れた」(細野一義工場長)という。溶解工場は、併設された事務所棟の執務スペースや会議室からも見渡すことができ、会議中でも現場の確認が可能だ。これらの設備が1日2回稼働し、足元では能力の7割以上となる月産1300トンのアルミ二次合金を製造している。

 従業員は約40人。新工場建設に際し、「ウェルグロー工場からの転籍を社員に願い出たが、着いてきてくれたのは5人」(同)と振り返る。現地での新規採用組が大多数を占めているが「マネジャークラスはウェルグロー工場の人材に兼務させているほか、試運転から1年以上かけて人材育成も進んできた」(若井英志社長)と話す。工場開設以来の無災害も継続中だ。

 工場のスムーズな立ち上げに成功したシラチャ工場は、今年2月に単月黒字を達成した。今期は通期での黒字に挑む格好だが、「前期は稼働率を高めるために入札案件を積極的に狙いに行った部分がある。今期は認証作業が完了したユーザー向けに、入札分の能力を振り分けて安定した収益体制を構築したい」(同)とし販売構成の充実化を目指す。

 今期は闇雲に販売量を増やすのではなく、原料調達と生産の最適化でコスト削減を実現する〝足固め〟の1年となる。それでも生産量の増加を鑑み、3月には能力増強に向けた環境認可を取得した。近い将来、敷地内の空きスペースに溶解工場を建設し、月産能力を倍増の3千トンまで引き上げることも検討している。

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