南海トラフ地震警戒情報 年内に地域対応策

 南海トラフ巨大地震の発生警戒を呼び掛ける国の新たな情報に基づく防災対応の検討が12日、始まった。同トラフ沿いで異常な現象や一定規模以上の地震が起きた場合、沿岸住民の避難や、事業活動の停止などを行うかどうかが論点。東海地震の予知に代わる新情報は既に運用が始まっているだけに、年内に方向性を示す方針だ。

 地震学者や自治体代表ら19人の委員による政府・中央防災会議の作業部会が同日、初会合を開いた。主査を務める名古屋大の福和伸夫教授は「丁寧に議論する一方で、大まかな方向性は早く出したい。不確実な情報にわれわれの知恵をどう生かすかだ」と述べた。

 部会に先行して、モデル地区(静岡、高知、中部経済圏)が地域性を考慮した検討に着手。新情報の発表時に津波を警戒してあらかじめ避難するかを住民に聞いたり、福祉施設や学校、企業、観光地などの対応策を話し合ったりしている。

 部会では、こうした議論も踏まえ、対応指針のような形で示すことも含め必要な社会的枠組みを検討。「対応がばらばらにならないよう一律の号砲は必要だが、地域ごとの多様性も認めてほしい」(尾崎正直高知県知事)といった声もあり、対応策の取りまとめは難航も予想される。

 静岡から西方へ延びる南海トラフでは、歴史的にマグニチュード(M)8級以上の巨大地震が繰り返し発生。最悪の場合、東日本大震災と同規模のM9になる恐れもある。

 こうした知見も踏まえ、気象庁は40年ほど前から実現を目指してきた東海地震の予知を取りやめ、昨年11月から南海トラフの全域を対象とした新情報に転換。何らかの異常が確認されれば「地震の可能性が平常時と比べて相対的に高まった」との臨時情報を発表するが、その後発生しないこともあり得るとしている。

 従来の予知では、静岡や神奈川などで鉄道の運行停止や道路規制、住民避難、学校の休校といった広範な規制措置が計画で定められていた。

混乱懸念、課題は多様

 南海トラフ巨大地震の警戒情報をどう生かすかを話し合う有識者らの検討が12日、スタートした。情報発表時は社会的な混乱も懸念されるが、必ず地震が起きるとは限らない。そうした不確実な情報を基に地域が無理なく実践できる被害軽減策はどのようなものか。難題を担う政府・中央防災会議作業部会の12日の初会合では、多様な角度から課題が指摘された。

 「静岡市と沼津市の論点が果たしてモデルになるのかどうか」

 懸念を口にしたのは、対応策を検討するモデル地区の一つ、静岡県の川勝平太知事。南海トラフで地震が起きると、数分で津波が到達する両市で避難の検討を開始したが、県内の沿岸部は津波対策の考え方に大きな違いがあるとした。

 「伊豆半島では住民が防潮堤はいらないと判断したが、浜松市では13メートルの防潮堤を整備している」。そうした現状から、今回検討する対応策についても「地域に応じた多様性が必要」と投げ掛けた。

 百貨店やライフライン企業などにヒアリングを行った中部経済圏では「操業は停止せず、事業を継続しながら実施可能な防災対応を取る」との意見が大半だった。情報が出ても巨大地震が起きない可能性がある点などが考慮されたためだ。

 それゆえ、避難行動や対応策をいつまで続けるのかも見極めが難しい。

 地域防災に詳しい加藤孝明東大准教授は「(地震が起きない場合に)情報が解除される時期がいつごろになるのかは生活に大きく関わる。議論の前提として決めておくべきだ」と提案。これに対し、地震学者の山岡耕春名古屋大教授は「解除時期は科学的には決められない。地震の可能性は徐々に減っていくものだ」と難しさを指摘した。

 主査を務める福和伸夫名古屋大教授は会合後、「国として基本的な考え方はまとめるが、一つの解決策があるような問題ではない。各地域が当事者意識を持って考えることも必要」との認識を示した。

南海トラフ巨大地震の住民避難などを検討する中央防災会議有識者会議初会合=12日午前、内閣府

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