ニッパツ横浜FCシーガルズが示す「日本の女子サッカーの現在地」

3月25日に行われたプレナスなでしこリーグ2部第2節、敵地でのASハリマアルビオン戦で0-5と圧勝。

続くプレナスなでしこリーグカップ2部グループAの開幕戦でも、敵地で昨季なでしこリーグ1部を戦ったちふれASエルフェン埼玉相手に終盤の得点で0-1と勝利。

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新シーズンのスタートから好調を維持していたのは、ニッパツ横浜FCシーガルズだ。2連勝の後に迎えたなでしこリーグカップ2部第2節の結果は…。

【2018プレナスなでしこリーグカップ2部、Aグループ第2節】 開催日:2018年4月7日(土曜)13:00 KICK OFF 観客動員:419人

会 場: 神奈川県立保土ケ谷公園サッカー場(神奈川県)

ニッパツ横浜FCシーガルズ 0-2 スフィーダ世田谷FC

【得点者】<世田谷>山本(12分)、菅野(19分)

昨季は前半戦で低迷。シーズン中に監督交代も起きたが、リーグ中断期間に就任した神野卓哉監督の下、後半戦は8戦4勝1分3敗と勝ち越し、10チーム中の5位でフィニッシュした。

神野監督は現役時代にJ2初代得点王にも輝いた快速FWで、引退後は選手として最後に所属した横浜FCの強化スタッフに就任。2006年に「ハマナチオ」(カテナチオの横浜版)と呼ばれた横浜FCのJ2優勝、クラブ史上初にして現在まで唯一となっているJ1昇格を果たしたチーム作りに貢献している。

そんな神野監督が初めてシーズン最初から指揮を執る今季、「各ポジションにライバルを」というコンセプトでチームを編成。背番号1から11までのレギュラー番号を全て既存の選手に託しているように、昨季の主力が残留した上に14名の個性溢れる選手が加入した。

チーム力を積み上げながらバラエティに富んだチームとなり、なでしこリーグ1部昇格を本気で狙いに来ている。

元日本代表の大型FW大滝麻未の加入で“縦ポン”が有効策に!

シーガルズは、ボールの位置に応じたゾーン守備のラインとブロックを作るオーソドックスな<4-4-2>の布陣を敷いて戦う。

「当たり前のことを当たり前に」(神野監督)、サッカーという競技自体の原理原則である球際の強さや1対1で戦い続けられるタフなチームだ。

ただ、攻撃へ切り替わった際はDFとMFの2ライン=8人の選手がボールより後ろにいるために前へのパスコースに乏しく、2トップにロングボールを当てることが多い。それでも、そんなシンプルな“縦ポン”が有効策となっているのは、今季フランスのパリFCから新加入した元日本代表FW大滝麻未(上記写真中央)の存在があるからだ。

2週間前の初戦・ハリマ戦での左足ボレーによる華麗な一発は、クロスを下がりながら豪快に叩き込んだゴラッソ。当日はハリマ側から取材していた筆者は思わず目を擦った。「男子の選手か?」と。

翌週も試合終了間際にヘディングで決勝点を奪った大滝。172cmという長身も含めて、その姿はまるで外国籍FWのような迫力を醸し出していた。

「1度自分でボールを収めてから攻撃を作って、そこからゴール前へ入っていくのが自分のプレースタイル」と、彼女は客観的に自身の特徴を語る。最前線でゲームメイクも担えるFWは、現在のシーガルズが求めていたタイプのストライカーにして、1部昇格を狙う柱となっている。

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ところが、スフィーダ世田谷FC戦ではその「強み」を生かすことが出来なかったのだ。それはなぜなのか?

強風で“空中”を使えずに“地上戦”で完敗

© YOKOHAMA FC

この日はリーグカップの第2節。1部昇格の懸かるリーグ戦とは違い、控えメンバーや怪我から復帰した選手のコンディション確認、または新人選手を起用して選手層の拡充に努めるチームもある。

シーガルズがホームに迎えたスフィーダ世田谷FCは、昨季リーグ11ゴールを挙げたクラブ待望の下部組織出身のエースFW長崎茜がベンチスタートとなるなど、2週間前のリーグ戦から先発メンバーを7人変更していた。

逆にシーガルズは1週間前のちふれ戦から2人の変更にとどめたものの、開幕から大滝との2トップで良い連携を見せていたFW高橋美夕紀がベンチスタートとなった。

この試合のポイントは度肝を抜かれそうな強風だった。コイントスで勝利したスフィーダは迷いなく風上を選択。エンドチェンジしてキックオフを迎えた。

スフィーダの川邉健一監督は「女子選手の特徴を活かすサッカーをする」と常々口にしており、攻守においてコンパクトな距離間を保ってプレーする。

本来はもっと細かいパスを多用した攻撃が理想だろうが、この試合では強風のために「縦ポン」を有効活用できないシーガルズの機能不全を利用し、セカンドボールに対して数的有利な状況で構えて中盤を支配。ボールを回収してから3本以内のパスで鋭い攻撃を披露した。

12分、素早い攻守の切り替えから左サイドをドリブル突破したスフィーダのMF橘木友理恵のクロスを、FW山本菜桜美が左足で蹴り込み、アウェイのスフィーダが先制。

続く19分にも左サイドからの攻撃で崩し、最後はMF菅野永遠が追加点を決める。シュートをポストに当てながらも、リバウンドを自ら押し込んだ。その後も何度も速攻から決定機を量産していく。

シーガルズは2つの失点シーンを始め、スフィーダの左サイドからの攻撃に何度も崩された。今季は右サイドバックとしてシーズンのスタートを切っていた36歳のベテランMF山本絵美が、この日はボランチとしてプレーしていた影響があるかもしれない。

強風で戻されるためにロングボールを有効に使えないシーガルズ。ある意味では「全体が間延びすることでスペースを作って攻撃する」ことが強みであるため、前線で起点を作れないと攻守が分断されて苦しくなるのだ。

© YOKOHAMA FC

頼みのFW大滝も、この日は後半にバランスを崩して放ったシュート1本に終わった(上記写真)。

相手の密集した陣地を抜け出して局面局面の1対1の勝負に持ち込む。これで2週間前のハリマ戦は見事に勝利したが、今季からポゼッション志向のサッカーに取り組み始めたハリマとは違い、クラブ創設者でもある川邉監督が率いるスフィーダの“地上戦”は一歩先を行っていた。

後半はやや盛り返したが、スコアは動かずの0-2。印象としては「完敗」だった。

戦術コンセプトがシンプルなぶん、新加入選手の個々の能力は発揮しやすいかもしれないが、やや一本調子だ。1部昇格を目指すには対応力の面で課題が出た試合だった。

日本の女子サッカーの現在地=シーガルズ?

「日本の女子サッカーの現状はどうなっているのか?」

2011年のFIFA女子ワールドカップドイツ大会の優勝を機に女子サッカーのブームが起きた日本。ただ、なでしこジャパンがリオ五輪の出場権を逃した結果だけで、“暗黒時代”の到来などと捉えるべきではない。

我々日本人の多くは、なでしこジャパンが急にドイツW杯で優勝し、2012年のロンドン五輪で銀メダル、2015年のカナダW杯でも準優勝した姿だけを見てきた、からだ。

あのドイツW杯による女子サッカーのブームを文化にできなかったのは事実。ただ、それ以降に日本の女子サッカーの大きな課題である「中学生年代のプレー環境」の乏しさは解消されつつある。

なでしこリーグ1部へ昇格するためには、「15歳以下のアカデミー(育成型)チームを編成する」という条件が必要になった。

逆にもともと中学生年代の育成に特化していたチームは、「所属選手がその先にもプレーできるように」とトップチームを編成して、なでしこリーグ入りを目指すようにもなった。

それが川澄奈穂美や上尾野辺めぐみ、杉田亜未をOGに持つ大和シルフィードであったり、この日勝利したスフィーダ世田谷FCでもある。小学校の卒業と同時にサッカーを辞めなければいけない、という状況が少なくなっていることは、今後に繋がるはずだ。

そして、ニッパツ横浜FCシーガルズもそうだ。1976年に「横須賀シーガルズFC」として設立されたクラブは、OGに大野忍や近賀ゆかり、矢野喬子といったドイツW杯優勝メンバーを3人も輩出しており、小中学年代の育成に長けていた。

そんなクラブが2013年2月、Jリーグの横浜FCを運営する関連法人である一般社団法人横浜FCスポーツクラブと業務提携を締結。横須賀シーガルズの女子トップチームは、なでしこリーグ入りを目指して「横浜FCシーガルズ」へと名称を変更した。2016年になでしこリーグ2部に昇格し、現在は2部で3年目のシーズンを戦っている。

2011年になでしこジャパンがドイツW杯で優勝して以降、横浜FCとの提携やなでしこリーグ入りなど重要な決断を行ってきた。また、OGでもある山本絵美や大滝麻未ら日本代表や海外でのプレー経験も豊富な選手が加入した現在のシーガルズは、7年前からは想像もできない進化を遂げているはずだ。

ある意味、日本の女子サッカー界に起きていることを象徴しているチームにして、真正面から壁にぶつかりながら抗ってもいる。こういうチームが本気で1部昇格を狙って戦うシーズンは、刺激的で面白い。

古今東西男女問わず、2部リーグから1部への昇格の鉄則となるのは「堅守」と「強力FW」の存在でもある。神野監督就任後に整備された守備戦術と、外国籍FW級の大型万能ストライカー=大滝の加入はその視点でも心強い。カップ戦では個性溢れる新戦力のテストも並行されながら、ポジション争いが激化するだろう。

ハード面もソフト面も揃い、機は熟した。今季のニッパツ横浜FCシーガルズは、本気でなでしこリーグ1部昇格を狙う!

ニッパツ横浜FCシーガルズ 今後の日程は?

次のホームゲームはGW5月3日の伊賀FCくノ一戦!それまではアウェイでの2連戦だ。

リーグカップの次節では、今季から2部に昇格してきた静岡産業大学ボニータと対戦する。

さらにリーグ戦再開後は、昨季1部を戦ったちふれ、そして伊賀フットボールクラブと、昨季までは違うカテゴリーで戦っていたチームと続けて対戦予定だ。

今後のスケジュールやイベント情報の詳細はクラブ公式コンテンツまで。充実した来場者プレゼントもあるぞ。

≪プレナスリーグカップ2部 :Aグループ≫

→なでしこ2部クラブを地域別に2組に分け、ホーム&アウェイ総当たり2回戦のグループリーグ首位同士が7/21or7/22に決勝戦を戦う。

第3節、4/15 (日) 13:00K.O. AWAY 対 静産磐田 @エコパ

≪プレナスなでしこリーグ2部≫

→全10チームによるホーム&アウェイの2回戦総当たり戦。優勝チームは1部自動昇格、2位はなでしこ1部9位チームとの入替戦。最下位は2部自動降格、9位はチャレンジリーグ(3部相当)2位チームとの入替戦。

第3節、4/28 (土)13:00K.O. AWAY 対 ちふれ @しらこば

第4節、5/3 (木) 13:00K.O. HOME 対 伊賀FC@ニッパツ

第5節、5/6 (日) 13:00K.O. AWAY 対バニーズ@亀岡陸上

次回は…ニッパツ横浜FCシーガルズ、元日本代表FW大滝麻未選手インタビュー!

試合後にはニッパツ横浜FCシーガルズの元日本代表FW大滝麻未選手にお話しを伺いました。

なでしこリーグを経ずに欧州女王のオリンピック・リヨンに加入するなど海外経験も豊富。25歳にして1度は現役引退を決意し、国際サッカー連盟(FIFA)が運営するスポーツマネージメント系の大学院=『FIFAマスター』に入学・卒業した。

現在28歳ながら様々な経験をして来た大滝選手に、ピッチ内外での現状をお話いただきました。お楽しみに!

筆者名:hirobrown

創設当初からのJリーグファンで、各種媒体に寄稿するサッカーライター。好きなクラブはアーセナル。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。中学・高校時代にサッカー部に所属。中学時はトレセンに選出される。その後は競技者としては離れていたが、サッカー観戦は欠かさない 。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。

Twitter:@hirobrownmiki

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