気持ちを聞く

 「聞く人」についてコピーライターの糸井重里さんが著書に書いている。〈よく「聞く」人と、いいかげんに「聞く」人の差は、あきれるほど、どんどんと開いていくものなんだ〉と▲なぜだろう。〈人っていうのは、「聞く」人に向かって話すからね〉。聞く側も〈ことばの奧にある「気持ち」だって、「聞く」ことができるようになる、だんだんとね〉。だから〈わからなくても聞く。わかっていても聞く〉▲年を重ねて、気持ちを「聞く」ことの意味ならばいくらか理解するようになったが「聞け、とにかく聞け」とわが身に言い聞かせるのは、いくつになっても容易でない▲ましてや相手が怒鳴っていたら、気持ちを聞こうにもなかなか聞けるものではない。それは分からなくもないのだが▲拳銃を持てる立場にある者が、上司にそれを向け、取り返しのつかない事件を起こした。逮捕された滋賀県警の巡査(19)は、上司に「怒鳴られたから」と話しているという。3月下旬、交番に配属され、地域の人によくあいさつしていた青年の心をどう推し量ろうか▲上司のことを「きちんと指導してくれた」とも供述している。むやみに怒鳴る人ではなかったと察する。配属から半月。本当ならば、荒げた声の底にある上司の気持ちをいずれ「聞く」こともあったろう。(徹)

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