トマホーク「7割撃墜」は本当か

By 太田清

14日、米軍艦から発射される巡航ミサイルのトマホーク(米海軍提供・共同)

 米英仏3カ国が14日、シリアのアサド政権の化学兵器使用疑惑に対し「懲罰攻撃」に踏み切った。首都ダマスカス近郊や中部ホムスの化学兵器関連施設3カ所を巡航ミサイル「トマホーク」などで限定的に攻撃。米国防総省は「全ての標的への攻撃に成功した」と成果を誇示した。 

 ロシアは「ミサイルが来れば迎撃する」と警告していたものの、シリア領に配備したS400などの最新鋭の対空ミサイルシステムは使用しなかった。米英仏側が攻撃を事前通告したほか、ロシア軍の主要拠点の北西部空軍、西部海軍基地を攻撃から除外。S400などによる反撃を避けるため、長射程ミサイルを主軸とした短時間の攻撃にとどめるなど衝突を避ける措置を取ったこともあるにはあるが、最終的には米国との決定的な対立を避けたいとのロシアの配慮が働いたのだろう。 

 一方、タス通信によると、ロシアのセルゲイ・ルトスコイ大将は14日、米英仏3カ国が艦艇や戦闘機から巡航ミサイル計103発を発射したが、シリア軍の防空システムが7割に当たる71発の迎撃に成功したと発表した。シリアの市民や兵士の死者は確認されていないことも明らかにした。 

 シリアがトマホーク撃墜に使ったのは、30年以上前の旧ソ連時代に製造されたS125やS200など2~3世代前の防空システムだが、同大将はロシア軍が過去18か月の間にシリアの防空システムを完全に再建したとした上で、「ロシアの専門家の訓練を受けてきたシリア軍兵士の高い能力が証明された」と称賛。シリアを訪問したロシアの与党「統一ロシア」の幹部と会談したアサド・シリア大統領は「1970年代に製造されたソ連製のミサイルで、米国の侵略に反撃することができた」と強調した。 

 事実とすれば、シリア軍は旧式のソ連製ミサイルで米国などの巡航ミサイルを撃退、被害も最小限だったことになるが、米統合参謀本部のマッケンジー中将は、シリア軍は40発の対空ミサイルを撃ったがいずれも迎撃に失敗。対空ミサイルの大半が、巡航ミサイルが目的を破壊した後に撃たれたもので、米英仏側の攻撃は「正確で圧倒的」だった一方、シリア軍の防空システムは「大部分はむだなもの」と指摘した。 

 攻撃を巡って双方の主張は真っ向から対立するが、どちらの言い分が正しいのか。米英仏が発射したミサイル数と、現地の実際の被害状況を照らし合わせるぐらいしか検証する方法はなさそうだが、米CNNテレビが面白いデータを報じた。米国防総省は攻撃対象3か所がどこにあるかを示す地図を明らかにしているが、CNNは民間の人工衛星会社に依頼して、攻撃対象の攻撃前と後の衛星写真を入手、比較した。 

 それによると、米国が化学兵器関連施設と主張するホムスの施設群について、シリア国営テレビはすべての巡航ミサイルは迎撃され被害はなかったとしているものの、13日の衛星写真にあった2施設が14日の写真では完全に破壊されていることが判明。ダマスカス近郊の施設についても8日の写真であった建物が、その後がれきと化している様子が写っている。 

 ロシア軍の主張に完全に対応した調査結果ではないものの、シリアの「大本営発表」を補強するロシアの旗色は悪そうだ。よくよく考えれば、30年以上も前の旧式の対空ミサイルでトマホークを撃墜できるのなら、S300やS400など、新世代のミサイルの開発は必要なかったのではないかとの疑問も湧いてくる。ロシア国防省は今回の空爆を受けて、S300のシリア供与を検討する考えを明らかにしている。 (共同通信=太田清)

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