【新入社員のための鉄鋼基礎講座(6)】普通鋼、特殊鋼の違い

 日常、我々が「鉄」と呼ぶ金属は、多くの場合「鋼」である。英語で言えばアイアンではなく、スチール。製銑工程で造られた「銑鉄」に含まれている炭素の割合を減らし不純物を除くと、強くてねばりのある鉄、つまり強靭な鉄ができる。これを鋼という。鉄と鋼は、炭素の含有量で区別されている。

 鋼は大きなつぼ型の転炉と呼ぶ設備で造られる。転炉に銑鉄を注ぎ込み、生石灰(きせっかい)を入れ、酸素を吹きつける。そうすることで炭素や不純物が燃え、高温になって溶けた鋼ができあがるのだ。

 銑鉄を粘りのある強靭な鋼にするためには、炭素を徹底的に減らし、また、溶銑予備処理でも取りきれなかった燐、硫黄、けい素などの不純物を極力除去する必要がある。

 鉄鋼製品(鋼材)は、普通鋼と特殊鋼に大別される。鋼には炭素(C)のほかに、けい素(Si)、マンガン(Mn)、燐(P)、硫黄(S)という元素が含まれており、これを鋼の「五大元素」と呼ぶことがある。この五大元素が入っただけの「鋼」を普通鋼または炭素鋼と言い、その他の元素が入って特殊な性質を示すようになったものを特殊鋼と呼ぶ。

 その他の元素とはクロムやニッケルなどの非鉄金属。これらの元素を少しずつ特殊配合して特殊鋼が造られる。硬さがほしい場合、柔らかさがほしい場合など、何に使うかに応じて、加える材料の量と種類を変えることにより調整する。

 クロムやニッケルの他に、モリブデン、マンガン、パナジウム、タングステン、コバルトなどが添加される。添加される量やタイミングで鋼の特性が変ってくる。

 日本で生産される鉄鋼のうち、8割程度が普通鋼で、2割程度が特殊鋼。普通鋼は汎用性が高く、大きく(1)条鋼(2)鋼板(3)鋼管など、に大別される。建設向けのほか、自動車向け、機械向けなど幅広い用途に使われる。

 特殊鋼は普通鋼に比べて強靭性や耐食性、耐熱性などに優れている。一般的には普通鋼より高価で、特殊な用途にも使われる。特殊鋼の6割程度が自動車分野向けとみられる。

 特殊鋼について、少し説明を加えたい。特殊鋼とは、その名のとおり特殊な性質を持った鋼(はがね)のこと。鉄に配合される合金に応じて、その性質は変わる。

 例えば鉄にマンガンを加えると、強さや硬さが高まる。ニッケルを加えると、粘りや強さが向上する。クロムを加えると、錆びにくくなり、摩耗しにくくなる。特殊鋼が使われる場所は、ボールペンのペン先から、自動車や航空機のエンジン部品まで、さまざまだ。高温や激しい摩擦などの過酷な環境下で使用されるという〝特殊〟な役割が求められるケースも多い。

 特殊鋼のことを英語では「スペシャル・スチール」という。ドイツ語では「Edelstahl(エーデルシュタール)」ともいうが、これを直訳すると「尊い鋼」となる。(一柳 朋紀)

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