【工場ルポ】〈台湾のワイヤロープ設備大手、九春工業・本社工場〉品質・生産性向上、世界的競争力を強化

 世界大手ワイヤロープ設備メーカーの九春工業(本社・台湾、会長・邱明傑氏)の本社工場は、ワイヤロープ製造機およびワイヤロープの加工機や引張試験機などを製造・販売している。近年では、世界最大の6千トンプレス機や、3千トン引張試験機を製造するなど、技術力は非常に高い。販売先は台湾国内だけでなく、北米・ヨーロッパ・日本など世界86カ国に及ぶ。『産業の命綱』と呼ばれるワイヤロープを製造・加工の設備面から支える同社の本社工場を訪れた。(台湾発=綾部 翔悟)

オーダーメード設備を製造

 同社のユーザーはワイヤロープメーカーとワイヤロープ加工業者が大半を占める。同社の引張試験機は世界大手のワイヤロープ関連企業に使用されており、認知度・実績ともに高い。直近では、世界大手ワイヤロープ加工業者のゲイリン(マレーシア)と、KTLマレーシアにそれぞれ世界最大の3千トン引張試験機を納入。また、昨年には世界最大の6千トンプレス機を中村工業の神戸工場に納入している。九春工業の本社工場は、大規模なワイヤロープ関連設備を製造しているだけでなく、600トンプレス機といった中小規模のワイヤロープ加工機なども製造している。

全工程で高品質を追求

 同社で製造するワイヤロープ関連設備は、ほとんどがオーダーメード。設備の性能だけでなく、オプション機能やサイズといったユーザーの要望に的確かつ迅速に応えている。特注品対応のため、自社で金型を製造しているだけでなく、3Dプリンタなどの最新機械や、破断および疲労検査室などを設け、高い水準の設備を製造している。邱明傑会長は「ユーザーの要望以上の製品の製造を心掛けている」と話す。

 品質を追求すべく、母材にも細心の注意を払っている。スリーブなどのワイヤロープ加工製品の母材となる線材や鋼板はCSCから仕入れており、サイズだけでなく材料組織まで綿密な条件で調達している。また、日本社製のパイプを仕入れており、製品の製造に関わる全工程の品質に余念がない。

グループ会社の工場と連携

 本社工場から車で10分程離れた場所に、九春工業のグループ会社である正盛工業の工場がある。同社は橋梁用ケーブルやプレテンションシステムなどを製造している。同工場では九春工場の設備を導入して、製品の安定性を高めており、両工場で連携して効率的に製造している。

 正盛工業の工場には1600トンの引張試験機があり、橋梁用ケーブルの強度試験を行っている。また、直近では2450トンのシームレスなアルミニウム押し出し機も導入し、アルミクランプ管などワイヤロープ関連設備製品なども製造・販売しながらワイヤロープ加工品の内製化を図っている。

 橋梁用ケーブルについては、ブリティックスなどの世界大手ワイヤロープメーカーからワイヤロープを仕入れ、大型設備を駆使して安定的な品質を保っている。直近では、台湾で最長の嘉義県梅山郷太平雲梯景観吊橋(全長281メートル、海抜約1千メートル)や、新北市瑞芳区慶安橋などに同社製の橋梁用ケーブルは使用されている。正盛工業は国内で培った技術を応用し、国外への販売増も目指している。

 ワイヤロープ関連設備を製造する九春工業の本社工場と、橋梁用ケーブルなどを製造する正盛工業の工場の特徴を生かし、同社は国内外を問わず、幅広い地域にワイヤロープ関連製品を拡販している。また、両工場にはそれぞれ研究開発室を設けており、ワイヤロープ関連設備およびシステムに関する新製品の試作・実験などが行われている。

工場自動化と研究員の増員進める

 ユーザーのニーズは多様化しており、九春工業の本社工場ではオーダーメードに対応する設備を積極的に導入している。直近では鋼管加工機を自動化設備に切り替えるほか、表面処理ラインなども随時更新する予定だ。

 本社工場は自動化を進めているが、従業員に関しては減員することなく研究員を増員する予定だ。同工場は20代の従業員も多く、新商品開発や、従業員同士の積極的な意見交換などをくみ取り、販売網を広げながら生産効率の向上を目指している。「設備の自動化を進め、品質・生産性の向上およびコストを削減する。また、人材の育成にも注力して世界的な競争力の強化に努める」(同)と増収増益に向け気持ちを引き締める。

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