【新入社員のための鉄鋼基礎講座(7)】「米国鉄鋼業界の歴史に学ぶ」、今のアジア市場は〝中国次第〟

 鉄は産業のコメといわれる。「鉄は国家なり」とか、その逆の「国家は鉄なり」との言葉もある。

 各国において産業が発展するためには、素材産業である鉄鋼業の育成は重要な位置づけだ。発展途上の国においては、インフラ整備に鉄は不可欠。消費財である自動車、電機など各種産業が発展するためには、素材である良質な鉄鋼材料(鋼材)の供給が欠かせない。

 世界鉄鋼業の歴史を詳細に振り返ることはここでは割愛するが、鉄鋼業の中心は欧州から始まり、19世紀後半になると、世界鉄鋼業のリーダーは欧州から米国に移り始めた。近代製鉄技術を確立したのは欧州だが、それを発展させたのはアメリカといえる。それは米国の五大湖地方で発見された鉄鉱石によるところが大きい。

 1890年代にはアメリカ鉄鋼業は欧州を凌駕し、20世紀は世界鉄鋼業を米国がリードする形で動いていった。

 米国の後は日本、その後中国が主導権を握る形で今に至っている。

 米国鉄鋼業界は「20世紀後半にかけて衰退した」といわれる。これはどういうことだろうか?少し考えてみたい。

 20世紀前半を通じ、米国鉄鋼業は世界貿易から大きく孤立されていたため、国内市場を支配していた8社の主要国内一貫メーカーは積極的に競争するための動機がほとんど存在しなかった。

 新製品開発や低コストの生産技術のための投資を実施せず、国内一貫メーカーは価格操作によって高利益を求めるような状況だった。

 米国は保護主義によって国内市場を守ることをしばしば行っている。今の通商拡大法232条による鉄とアルミの輸入制限も同様だろう。 

 過去にも米国は、消費者が輸入材を買うことを阻止し、ユーザーに負担を課すような一連の貿易障壁を打ち立てた。加えてメーカーは、自社の財務悪化を乗り切って非効率的な設備を休止しなくてもいいように、連邦政府から数十億ドルという補助金を確保する道を選んだ。

 こうしたやり方は、短期的には鉄鋼メーカーにプラスに働くように見えるが、中長期での力を落とし、米国経済全体にコストを押し付けることを意味した。保護したことで短期的には助かったが、追い込まれてコスト競争力を高めていくことが無かった。

 政府に保護されたことで力をつける機会を失ったこと、また、設備投資や研究開発投資を行ってこなかったことなどが米国鉄鋼業が衰退した歩み。これは、日本鉄鋼業が歩んではいけない道でもある。

 足元で世界鉄鋼業の最大の懸念である米国の保護主義政策により、アジア市場に鋼材が還流する懸念がある。中国ミルの行動いかんによっては、アジア市場が混乱する恐れはある。

 昨年までは中国政府の供給過剰能力に対する本気の取り組みが奏功し、中国ミルも自制した行動をとった。中国材が米国から締め出された時に中国ミルがどう対応するのか、その時の中国の内需(国内需要)がどれほど強いのか。

 今年も、世界の鉄鋼業界は中国次第の展開となりそうだ。(一柳 朋紀・おわり)

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