結果がどう転んでも大きな1年になることは間違いない。スポーツクライミングのワールドカップ(W杯)女子に初参戦する岩手・盛岡中央高1年の伊藤ふたばは、第一人者の野口啓代ら3選手とともにスピード、ボルダリング、リードの全3種目に選出された。
東京五輪を2年後に控える中で臨む初の海外連戦へ「夢だったのでとにかく楽しみ」と心を躍らせる。
小学3年から競技を始めた。「小さい頃から高いところが好きで。上まで行くのがすごく楽しかった」
昨年のボルダリング・ジャパンカップ(BJC)を史上最年少の14歳で制して一躍脚光を浴びた。世界ユース選手権でも同種目で優勝。スピード、リードとの3種目で競う複合も3位と、着々と実績を積み重ねている。
長い手足に柔軟性と瞬発力を兼ね備え、160センチの体をそつなく、時にダイナミックに運ぶ。
性格は負けず嫌い。どんな課題を目の前にしても「全部いけそうだなって思っちゃう。実際登ってみたら全然できないこともあるけど」と笑う。
海外挑戦を見据え、中学1年からは両親に頼み込んで英会話を勉強する。「絶対に必要になってくると思った。少し会話ができるようになってきた」。競技外での準備も自ら考え進めてきた。
その都度変わる課題を前に、年上の選手に交じり登るルートを吟味する様は堂々としている。
今季は「世界の強い人たちが集まる中で、自分がどの位置にいるのかしっかり把握したい」。まだ中学生だった3月、言葉を丁寧に選びながら話す姿は大人のそれと変わらなかった。
今年に入りBJC、リードの日本選手権でいずれも3位。それぞれ2位と優勝の好成績を残した森秋彩、昨年の世界ユース選手権で複合優勝の谷井菜月ら1学年下からの突き上げは強烈だ。
ただ、強力なライバルたちは年齢規定でまだW杯に出場できない。最大2枠の東京五輪出場権争いが激しさを増す中「たくさんいろいろな経験をして自分の足りないところを探したい」と一足先に世界へ踏み出した。
迎えた4月13日のW杯初戦(マイリンゲン=スイス)。得意のボルダリングだったが、予選27位に終わる苦しいデビュー戦になった。
5課題で完登できたのは二つ。「雰囲気も、出ている選手の意気込み、気合いも全部が違った。(課題も)100倍難しかった」
独特の空気にのまれた。ただ、異国の地で厳しいコース設定にはね返される経験こそ自ら勝ち取ったもの。伸びしろを見つけるチャンスを早速得たともいえる。
昨年は自身の活躍の陰に隠れていた実力者の野中生萌が優勝。ボルダリングでW杯総合優勝4度の戦績を誇り、憧れの存在という野口も3位と上々のスタートを切った。
「野口、野中両選手は世界のトップ。(W杯で)勝たないといけない」。初戦前の言葉を実現するチャンスはまだまだ残っている。
スピード、リードでも世界のトップクラスを初めて肌で感じる特別な年。世界を舞台にどんな成長曲線の続きを描けるか。
中元 盛千佳(なかもと・もりちか)プロフィル
2012年共同通信入社。本社海外部スポーツ担当を経て17年7月に運動部へ異動。アマチュアスポーツを中心に取材。愛知県出身。