「電気ショック、性的暴行、背骨骨折」それでも自殺

ロシア起業家の凄絶な獄中死

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太田清

47NEWS編集長

太田清

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共同通信社入社後、広島支局、大阪社会部、外信部、経済部、ベオグラード支局、モスクワ支局、ローマ支局などを経て2016年より現職。

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地方新聞社や共同通信の記者らによる署名入りコラム。 地方創生に絡む問題を多く取り上げ、新聞記事とは違った切り口で提供します。

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モスクワにあるマグニツキー弁護士の墓=2012年11月16日(AP=共同)

 ロシアの留置施設で2月、詐欺・横領の疑いで逮捕され勾留中の起業家の男性が首をつって死んでいるのが見つかった。当初は自殺として処理されたが、遺族は自殺ではなく、持病の心臓病の治療を受けられなかったための病死だと主張。しかし、実態はさらにおぞましいものだった。司法解剖の結果、男性の遺体から「電気ショックによるやけど、性的暴行、骨折した背骨、体中のナイフの切り傷」の痕跡が次々と見つかり、死因は頸部の外傷と首を絞められたことによる窒息死であることが分かったからだ。 

 プーチン体制への批判を続けロシアの人権弾圧への調査報道で数々の人権・報道に関する国際賞を受け、ノーベル平和賞候補にもなった「ノーバヤ・ガゼータ」紙は事件について「男性は拷問にかけられ、死ぬ前に性的暴行を受けた」と報じた。 

 ロシアでの勾留中の獄中死を巡っては、内務省当局者の巨額横領を告発した人権派弁護士マグニツキー氏が逆に逮捕され、2009年に獄中死した事件が有名で、米国では事件を受け12年、人権侵害に関与したロシア当局者への米国ビザ発給停止や資産凍結を定めた通称「マグニツキー法」が成立している。今回の起業家の凄惨な死をきっかけに、あらためてロシアの留置施設での人権問題が内外で議論を呼ぶ可能性もある。

 ▽ロシアのイーロン・マスク 

 男性はロシア第2の都市、サンクトペテルブルクのワレリー・プシェニチヌイさん(56)で、同市でIT企業を起業。コンピューターによる最新の3Dモデリング技術を開発し、その革新性から、米電気自動車(EV)メーカー、テスラを起業したイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)にちなみ「ロシアのイーロン・マスク」とも呼ばれた。 

 ロシア国防省と契約を結び同技術を使った潜水艦の建造・補修関連業務に携わっていたが2016年、会社の共同経営者が資金を使いこんでいるとして警察に訴えたことから運命が暗転する。逮捕された共同経営者は逆に、不正を働いているのはプシェニチヌイさんと証言。その後、警察は国防省との契約金額を不当に引き上げ、1億ルーブル(約1億7000万円)をだまし取った疑いで今年1月、プシェニチヌイさんを逮捕した。 

 ▽金を払うな 

 留置施設では3人の容疑者と房をともにしていたが事件が起きた2月5日、3人が弁護士との面会や取り調べのため房を離れ、戻ったところ首をつったプシェニチヌイさんが見つかった。最近になり行われた司法解剖の結果、電気湯沸かし器のコードを使ったとみられる電気ショックのやけどの痕が口内にあったほか、体中に刺し傷や裂傷が見つかった。背骨が折れており、性的暴行を受けた痕跡もあった。一部報道によると、留置施設側はなぜかその後、守衛全員のDNAを採取したが、性的暴行との関連を調べる目的で行った疑いもある。  

 留置施設側は暫定的な死因診断では自殺と断定されていると主張、今のところ司法解剖の結果を認めていない。勾留中のプシェニチヌイさんは妻ナタリヤさんにあて3回出した手紙で、いずれも「誰にも金を払うな」と警告しており、何者かに金銭の支払いを強要されたが拒否したため、拷問にかけられた可能性も指摘されている。  (共同通信=太田清)

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