【ニュースの周辺】〈自動車用超ハイテン、相次ぐ生産体制強化〉〝EV化の波〟も需要押し上げ 素材間競争激化に布石

 新日鉄住金、神戸製鋼所の高炉2社が自動車用超ハイテンの生産体制強化に相次ぎ乗り出した。両社とも数百億円を投じて新ライン建設に踏み切る背景には、従来ラインで対応が難しいほど質と量の両面で超ハイテンのニーズが高まっていることがある。自動車を巡る素材間競争の激化に備えた布石を打つ狙いもあるようだ。

 新日鉄住金によると、自動車用ハイテン(590メガパスカル級以上)の世界需要は2030年に現在の1・5~2倍に拡大する見通し。なかでも超ハイテン(980メガパスカル級以上)の需要はハイテン全体の伸びを上回るペースで増えるという。世界的に自動車の燃費など環境規制が強まる一方、車体重量の増加につながる衝突安全基準の強化もあり、車体軽量化につながる超ハイテンのニーズは加速の一途たどっている。

 超ハイテン需要を押し上げる要因には電気自動車(EV)など電動車の普及もある。ガソリンを使わないEVでも軽量化が必要なのは、車体の重さが航続距離や走行安定性に大きく影響するためだ。自動車は「パワートレイン(駆動装置)の種類に関わらず車体を軽量化すると、燃費や航続距離が改善する。重量が減るほど効率が上がることに変わりはない。EV化が進んでも車体の軽量化をぜひ進めたいというのがお客さんの声だ」(高炉幹部)。

 EVは電池を搭載する分、ガソリンエンジン車より車体重量が重い傾向にある。乗り心地につながる走行安定性を高める観点でも軽量化ニーズは強い。

 新日鉄住金が新ラインを建設する背景には、鉄以外のライバル素材を意識した面もあるようだ。自動車を巡る素材間競争は激化している。ハイテン需要が高まる一方、自動車用素材に占める鉄鋼材料の割合は「この4~5年で少しずつだが減っている」(関係者)。

 従来の生産ラインでは設備仕様上、超ハイテンの効率的な量産が難しい場合がある。より高度なニーズに対応することが他素材に対抗する上で重要となる中、新たな武器として新ラインを導入する。

 鉄以外の素材の動きではここ数年、大型車のボンネットやフードといったパネル系部品でアルミの採用が拡大。複雑な形状に成形しやすい炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は「技術が進み価格も徐々に下がってきている」(同)。

 ただ、自動車の素材に求められるのは単純な軽さではない。安全性や走行性を備える車体構造を実現でき、さらにコストと量産性にも見合う材料が求められる。いくつもの条件をバランスよく満たす総合力を考えれば、今後も鉄鋼材料の優位性は変わらないとの見方も強い。

 自動車メーカーがとりわけ強く求めるのは高強度だけでなく良好なプレス成形性、溶接性なども兼ね備えた高機能な超ハイテン。新日鉄住金、神戸製鋼とも新ラインには独自の最新技術やノウハウを注ぎ込むとみられる。鉄鋼材料の可能性を広げるうえで重要な一手になりそうだ。(石川 勇吉)

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