呪い?事故?セガ山田Pが語る「サカつく事件簿」

日本を代表するサッカークラブ経営シュミレーションゲーム『プロサッカークラブをつくろう!』、現在まで20作品が発売されており青春時代を共に過ごしたことのあるユーザーも多いだろう。

「サカつく」の愛称で知られる同ゲームだが、作品の開発時にはそれはそれは大変な事件だらけであったという。

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そこで今回は4月にまもなく ローンチ予定の『プロサッカークラブをつくろう! ロード・トゥ・ワールド』の山田理一郎プロデューサーに話を聞いた。

プロサッカークラブをつくろう! ロード・トゥ・ワールド

サッカーを知らない開発チーム?フットサル場にどてらを着て登場

ーー山田さんは『サカつく』シリーズ開発に古くからかかわっておられるということですが?現在は同じセガがスマートフォン版を配信する『真・女神転生』シリーズもびっくりのアクシデント続きのゲームだった?と聞いたのですがほんとうですか(笑)?

山田P(以下略): 私がセガ(現:セガゲームス)に入社したのは1999年で2003年のPS2版の3からメインでかかわるようになりましたが、それ以前もお手伝いはしていました。

今でこそ違いますが、私が入社したころのゲーム会社なんて“オタク”しかいないわけです。私も自分のことを自分でオタクだと思っていましたが、次元が違った。そもそもサッカーなんて知ってる人が少ない時代でしたしね。

だから、サカつくチームにもサッカー経験者、サッカーファンなんてほとんどいなかったはずです。セガ内でフットサル大会をやった時には、寒さしのぎにどてらを着てきたやつがいましたからね・・・。衝撃的でしたよ。

【次ページ】ROMが2種類?

バグとの戦い・・・ROMが2種類?

ーー失礼な話ですが、そんな状態でよくサカつくシリーズが生まれましたね?

今思えば、サッカーを知らなかったのがむしろ良かったのかもしれません。初期のサカつくって「リアルさ」よりも「面白さ」重視のゲームでしたし、サッカーに詳しくなくても遊べるゲームになってましたからね。

それでも、発売前は上からは「絶対売れない」と言われていたそうです。実は『プロサッカークラブをつくろう!』というのは開発時のコードナンバーというか仮タイトルで、そのまま「これでいいんじゃない?」となっての発売だったとか。

最初の発売は1996年2月、世間はJリーグブームから1998年のフランスワールドカップへ向かう頃でした。2が1997年11月に発売、「ジョホールバルの歓喜」の時に試合でもCMが放送されてさらにブレイクし、売り上げが50万本を超えセガサターンを代表する作品のひとつとなりました。

プロサッカークラブをつくろう! ロード・トゥ・ワールドの山田理一郎プロデューサー

ーーそのサカつく2ですがROMが2種類あると聞いたことがありますが本当ですか?

うーん、僕は当事者じゃないのでそこはわからないですが・・・全然ありうる話ですね。今でこそ家庭用ゲーム機にもストレージが搭載されていてパッチが当てられますけれど、当時はそんなこと出来なかったので。

【次ページ】蕨市事件

ディレクターを青ざめさせた「蕨市(わらびし)」事件

ーーそうしたROMが2つあることは「よくあること」なのでしょうか?

あってはならないことなのですが、あります。サカつくはその後子会社へ移って作成をしていたのですが、特大号2(2001年)の時に発売日にファンから怒りのメールがきたことがあります。こんな内容でした。

「俺は発売日に仕事を休んでサカつくを楽しみにして買った。もちろんホームタウンは俺の地元の蕨市に作るつもりで。だが、このサカつくには蕨市がない。俺の地元がゲームに搭載されていないというこのつらさがお前らに分かるか?」

当時市町村統合が活発だったせいで、その処理をしている途中に誤って蕨市だけ消えてしまったんですね。ディレクターが青い顔になって奔走してましたけど。蕨市を追加したBバージョンを作りました。ユーザーさんにも送付したはずです。僕は特大号2は関わっていなかったですけども、「蕨市」というとなんかこの事件を思い出します。蕨市っていうところがまたね…。微妙にチェックでも気づかなそうだなという…。あ、市としては日本で一番面積が狭いという意味でですよ。蕨市をディスってるわけではないです!

※蕨市は埼玉県南東部にある。人口は約7万3千人(2016年2月現在)

ーー古き良き時代の話ですね。今ではネットでパッチを当ててアップデートできますから(笑)。

実はですね…PSPのタイトルでパッチをはじめて当てたのは僕なんです。褒められた話ではありませんが…。

サカつく6(2009年)が発売になって、ユーザーからの評判もなかなかよく安堵していたんですけども、30年目以降に海外のクラブがどんどん弱くなっていくという問題が発覚しまして。選手補強の思考ルーチンに問題があって、自国の選手を優先して取るようになってしまっていた。だから、イングランドとかスペインのクラブチームとかがどんどん弱くなっていってしまう。

言い訳ではないのですが、シミュレーションゲーム(SLG)というのはバグチェックに限りがあります。何万人という選手がいてクラブチームなどの数も膨大、何時間でも遊べてしまうわけで自由度がとても高いんです。我々も極力努力して、ゲーム内で20年(40時間ぐらいはかかる)をめどにチェックをいろんなパターンでチェックしていたんですが30年以上のチェックが…。

ゲーム進行が止まるようなバグであればすぐアラートが入りますが、これはバランスに関わる部分なので特にわかりづらいタイプでしたね…。

【次ページ】オーナーが試合中に乱入?

原因不明。オーナー乱入と広島強すぎ問題??

ーー確かにシミュレーションゲームってアイデア次第で自由が聞きますもんね。RPGなどでは未だに解析され続けているゲームがあります。サカつくこそ解明されていないバグとかもあるんじゃないですか?

はい、ありますよ。'04(2004年)ではライバルチームをはじめてビジュアル化しました。チーム「オイリス」とそのオーナー「油野茂夫」です。元ネタはわかってくれる人ならわかってくれるアレです。

僕が深夜にテストプレーで試合をしていると油野茂夫がスーツを着たままフィールドを一瞬横切ったんです。「えっ?」と思ったのですが、テストプレー中に録画しているVHSがその時だけ切れていたので証拠もなく。結局その後再現もしなかったので「勘違いではないか」ということでそのまま発売になったんですね。

で、発売後ユーザーの声を拾うために某掲示板を見ていたんですが、そこにこんな書き込みがありました。

「さっき、油野茂夫が試合中にヘディングシュート決めたんだけど…」

「うわ、やべえ、やっぱあるんじゃん。」と思ったんですが、やっぱり滅多に出ないものだったらしく誰も反応もせずにスルーされてました。あの書き込みした人には教えてあげたいですよ。確かにあなたの言うとおり、'04では油野茂一がピッチに登場することがあるんです。幻ではないです。でも原因は結局わからなかったんですよね…。

プロサッカークラブをつくろう! ロード・トゥ・ワールドの山田理一郎プロデューサー2

ーースーツ姿のオーナーがヘディングシュートを決めるという絵面はちょっとシュールですね。他にはありますか?

7 EURO PLUS(2011年)の時の「広島強すぎ」問題ですね…。

マスターアップした後、チーム内でも引き続きプレイチェックをしていたんですけど、そのうちの一人が「なんかこのゲームの広島って強くないですか?」って言いだして。そうしたら他のメンバーからも「僕のとこもです。」「ウチのチームとずっと2強状態です」みたいな反応が返ってきて。

データを確認したんですけども、広島の選手自体が別に能力値が極端に高いわけではない。でも確かにやたらと強いんです。これも原因はわからなかった。その頃僕はサンフサポーターであることを公言していて。「プロデューサーがひいきして広島を強くしたんじゃないか」と叩かれる未来を覚悟していたんですが、その年、現実の世界でも広島が優勝をしたんですよ!!結果「広島強いのはまあしょうがない」という空気になって事なきを得ました(笑)。あれはホッとしましたね…。

あ、あと7ではFC東京でスタートして特定条件でJ1に上がった場合に監督をクビになるというバグがあってパッチ対応しましたね…。せっかく昇格したのにクビになってしまったFC東京サポの方、すみません!

【次ページ】一番のイケメンは誰だ?

イケメン対決 茂庭VS内田

――サカつくというと現実の選手やキャラクターとのリンクがあります。そこで苦労したことは何かありますか?

サカつくって、引退する年齢がシステム的に42歳上限で組まれていて、それでいろんなバランスとってたんですけど三浦カズ選手がそこを軽々超えてくるんですよね…。そんな年齢まで引退しないでプレイすることを想定しないので、結局毎回特殊対応している気がします。専用の成長曲線作ったりとか。

プロサッカークラブをつくろう! ロード・トゥ・ワールドの山田理一郎プロデューサー3

ーー流石!!ゲーム内でも伝説を作ってしまいましたね。

あとは「サカつくを作ろう!」という企画でJリーガーの能力をファン投票したことがあります。「ファンサービスが良い」、「バンディエラ」、「イケメン」とかそのチーム内のファンしか知らないような地方の“おらが街”の選手を発掘したかったんですね。

「イケメン」の投票では、まあ内田篤人選手が本命だろうな、と思っていて。中間経過でも内田選手だったんですが突然茂庭選手がスゲー追い上げてきて。なんか茂庭選手ってなんかのインタビューでセールスポイントは「ルックス!」って答えていたみたいで、FC東京サポの人たちが「イケメンっつったら俺らの茂庭だろ」みたいなノリになって組織投票があったみたいなんですよ。

その結果に焦ったのは内田選手のファンなのか鹿島サポなのか…。結局この二人のデッドヒートが繰り広げられて、結果茂庭選手が一位になったんですけど、内田選手のファンの人から「この結果はおかしいだろう」と抗議メールをもらったりとかありましたねえ…。

いや、茂庭選手もカッコいいですよ?イケメンなのは間違いないと思いますけども。

【次ページ】久保らしいセリフとは

久保らしいセリフとは何か

ーーサカつくというと秘書が売りでもあります。

最初に芸能人の方を起用したのは僕ですね。サカつく6の時です。芸能事務所さんに話を持って、サカつくファンということで話が実現しましたね。皆藤愛子さん他6名の方に出演していただきました。

ところが、ゲームで現実にいる女性を作るのってすごい難しいんです。男性は立体的でしわや凹凸があります。ところが、女性はメイクもしていますし顔が色白、だけど二次元のキャラクター的にはできない。結構NGをもらいながら作った記憶があります。

ーー今回、スマートフォン向けで「プロサッカークラブをつくろう! ロード・トゥ・ワールド」という作品がリリースされます。誰か有名人が秘書になったりするのでしょうか?

実はかつて選手が引退して秘書になるということも考えたことあります。内田篤人選手が引退したら自チームの秘書になるみたいな。

プロサッカークラブをつくろう! ロード・トゥ・ワールドの山田理一郎プロデューサーと久保竜彦

ーー女性ファン大喜び的な(笑)。

今回は秘書ではないのですが、チーム内にいるベテラン選手という位置づけで久保竜彦選手が出演します。久保選手は初期に全員が使える選手になりますが長いこと使っていただけるようになっています。

今は久保選手っぽさを出すためにセリフを調整しています。久保選手は、ファンならみなさんご存知だとは思いますが寡黙な方です。とはいえ、「・・・」ではゲームにならないので、それはもう苦労しながら。

ーー今までの作品と何か違いはありますか?

今回、サターンやドリームキャスト時代を意識して作りました。最初のサカつくが出てきた時はJリーグ、そしてサポーターというものが誕生した時代でした。そこから、ゲームの過渡期にはJリーグのチームにもコアサポというものがでてきた。6や7の時はコアなファンに向けてゲームを作りましたね。

今回はスマートフォンというところで、幅広いユーザーの方に遊んでもらうために、あえて昔のシンプルだったテイストに近くしつつ、やり込んでいくとディープにというイメージで作っています。今までサカつくを遊んでいなかったかたにも触りやすいものになっていますので、ぜひプレイしていただけますと。

ーー本日はありがとうございました。

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