深謀遠慮を

 3人がうそ発見器にかけられた。うそをつくとブザーが鳴る。まずは中国の習近平国家主席。「私はいつも考えている。中国だけでなく、世界中が豊かであれと」。ブー。日本の安倍晋三首相。「私はいつも考えている。北朝鮮と良き友になれたらと」。ブー▲トランプ米大統領。「私はいつも考えている」。ブー。ノンフィクション作家、早坂隆さんが集めた世界のジョーク集にある。口さがない笑い話だが、確かにこの大統領には「熟考」よりも「軽はずみ」の形容が合う▲深く見通し、遠い先までよく考える。「深謀遠慮」の出番だろう。米朝首脳会談に先んじて日米のトップが会談し、トランプ氏は拉致問題を北朝鮮に提起すると明言した▲氏に拉致問題の解決を迫ってもらい、「北」が圧力にひるんだところで日朝会談へ-という日本政府の筋立てらしい。早い話、「トランプ氏任せ」である▲拉致被害者のご家族は「逃してはいけないチャンス」と氏に懸ける。深謀遠慮で事が動けばいいが、米国第一の人が拉致問題でどこまで熟考を重ね、本腰を入れるか見通せない▲「一筆啓上賞」のいつかの入賞作にある。〈拉致の「拉」が/怒り、哀(かな)しむ瞳の中で/「泣」とかすんだ日を忘れない〉。待たれるのはご家族のうれし涙で、再三再四の悔し涙のはずがない。(徹)

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