FIFAマスターから東京五輪へ~元日本代表FW大滝麻未の現在地

今季初戦となった敵地でのASハリマアルビオン戦での再デビューを、自らの豪快な左足ボレー弾で飾った、ニッパツ横浜FCシーガルズの元日本代表FW大滝麻未。

彼女のサッカー人生は、小学校入学当時に「リフティングを10回できたら、『いわきや』(地元・平塚市の駄菓子屋)で100円分遊んでいいぞ」という父親による“誘惑”から始まった。

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以来、早稲田大学時代に得点を量産して注目を集め、なでしこリーグを経ずに欧州女王のオリンピック・リヨンに加入。なでしこジャパンにも招集され、ロンドン五輪ではサポートメンバーとしてチームに帯同した。

しかし、浦和レッドダイヤモンドレディースでのプレーを経て、2015年5月にフランスのEAギャンガンで当時25歳にして現役引退。

その後、国際サッカー連盟(FIFA)が運営するスポーツマネジメント系の大学院『FIFAマスター』に入学・卒業。昨夏にフランスで現役復帰し、今季から中学・高校時代に所属した古巣へ加入した。

そんな大滝に様々な経験を語ってもらった。(取材日:2018年4月7日 写真提供:ニッパツ横浜FCシーガルズ)

「現役選手として」東京五輪に出たい!

今季から古巣シーガルズに復帰した大滝は、『プレナスなでしこリーグ2部』の初戦・ハリマ戦で、豪快かつ華麗な左足ボレー弾を決めて会場の度肝を抜いた。

大滝は現在のなでしこジャパンのFW陣で「高さ」を求められる菅澤優衣香(現・浦和L)よりも4cm高い172cm。加えてフランスでのプレー経験も長いため、フィジカルバトルでも圧倒的に強さを発揮している。シンプルに身体能力が高いこともあるが、肩や上半身を駆使し、相手のセンターバックコンビが同時に当たりに来ても蹴散らしてしまう。

また、彼女は「止めて、蹴る」基本技術の高さを武器にしており、男子で言えば、元オランダ代表FWデニス・ベルカンプや元ナイジェリア代表FWヌワンコ・カヌのような、『最前線のゲームメイカー』としても機能する一面を持っている選手なのだ。

――お疲れ様です。2週間前のASハリマアルビオン戦も取材しておりました。あの完璧な左足ボレーでのゴラッソを間近で拝見しました。

大滝麻未(以下略):ありがとうございます!あれはホントに完璧でしたね!(笑)

――左サイドからのクロスに、少し下がりながら合わせた難しいボレーシュート。あのゴールだけでなく、現在の大滝選手はクロスに対してマイナス方向で受ける場面が多いような気がします。

1度自分でボールを収めて攻撃の起点になったり、ゲームを作りながらゴール前へ入っていくのが、自分のやりやすいプレースタイルなんです。攻撃に切り替わった時に1度マイナス方向へ動き出すのは、意識してやっている部分ですね。

――外国籍FWのような存在感を醸し出していますね!

周囲の選手よりも身体も大きいですし、海外でやってきているので強いプレッシャーにも慣れています。そういうところは自分の特徴だと思います。外国人FWとは思ってないですけど(笑)

――1度現役を退かれてからプレースタイルを微修正した部分もあるのですか?

そうでもないです。チームのバランスということもあります。今、チームがやろうとしているサッカーでは、FWが1度ボールを収めてから攻撃を展開していくので、いったん引いて受けるプレーは多くなっていると思います。

なので、今の自分の課題は下がってボールを受けてから、どれだけ速くゴール前に入っていってシュートに絡めるか?その回数を増やしていくことですね。

――現役へ復帰されたのは、「2020年の東京五輪に出る!」ためだと伺いました。

現状からすると、凄く大変な目標だと思いますけど。

――あのハリマ戦のボレーを見せつけられると、可能性ありますよ!

叶いますかね?(笑)やっぱり、1度決めたからには、そこを目指します!

――25歳にして1度現役を退く決意をされた理由は何だったのでしょうか?

自分がやりたかったことは、『海外でプロサッカー選手として生活していくこと』でした。それが叶い、なでしこジャパンにも呼ばれました。

でも、どこかフランスでプレーしていることに満足しているところがありました。『このままやっていても…』と思っていたので、1度引退を決意しました。

――フランスのEAギャンガンで引退し、現役に復帰したのもフランスのパリFC(強豪FCジュビジーと合併)でした。

フランスで引退すると決めていたわけではないのです。ただ現役復帰に関しては、もともとフランスでやっていたので、まわりが色んなコネクションを持っていました。

フランス以外の国でもチャレンジしたいと考えていて、実際に行動しました。しかし最終的には、フランスでの現役復帰に至りました。

理想のクラブはオリンピック・リヨン

大滝は早稲田大学時代、1年目から50得点を挙げるなど得点を量産する。2年生時にはユニバーシアード・ベオグラード大会での活躍が注目を集め、カナダの強豪ヨーク大学から誘いを受けて2カ月半の短期留学。カナダの大学選手権で全国優勝に貢献し、14試合14得点で得点女王とMVPをダブル受賞した。

そして大学4年生時のユニバーシアード中国大会でも6試合8得点。得点女王を獲得し、準優勝した日本を牽引した。特にフランスとは2度対戦して共に2ゴールの計4ゴール。その時のフランスのベンチには、オリンピック・リヨンのアシスタントコーチが座っており、トライアウトに招待された。

そして2012年1月、大滝は晴れて「特別なチーム」リヨンへ加入した。

リヨンは男子トップチームが2001-2008年まで国内リーグを7連覇し、「リヨン王朝」と呼ばれた強豪。女子にいたっては現在リーグ11連覇中で、2011年の女子欧州チャンピオンズリーグ初制覇から、すでに大会史上最多タイの4度の欧州制覇を成し遂げている。

また、現在男子の欧州サッカー最前線で活躍するカリム・ベンゼマ(現レアル・マドリー)や、アレクサンドル・ラカゼット(現アーセナル)、サミュエル・ウンティティ(現バルセロナ)らを輩出した育成組織の充実ぶりも際立つ、「理想的なクラブ」だ。

――やっぱり、振り返ってみるとオリンピック・リヨンは理想のクラブでしたか?

リヨンは特別ですね!女子チームも完全プロチームとして組織されていて、月収200万円を貰っている選手もいます。

――ジャン・ミシェル・オラス会長(※)とはお話されましたか?

普通によく話していました。オラス会長が来てからリヨンは強豪に生まれ変わったので、クラブ外に敵を多く作ってしまう人なのかもしれません。

でも、私は好きですし、クラブの内側の人達にとっては気さくにお話してくれる良い会長さんです。オラス会長が『女子サッカーに力を入れたい』と、投資してもらっているからこそ、理想が実現できています。

ただ、それをなでしこリーグのチームに照らし合わせることはできないですね。

(※オラス会長:1987年にリヨン会長に就任。 「ヨーロッパビッグクラブ連合体」とも呼ばれる『G14』の代表も務めた欧州屈指の辣腕会長)

――リヨンで仲が良かった選手は?

1番仲が良かったのは、キャプテンのフランス女子代表DFワンディ・ルナール選手です。今も仲良くしていて、今度日本へも遊びに来てくれるんです(笑)

――大滝選手は現役を離れてからコーチもされていたと伺いました。日本では女性指導者の少なさが危惧されますが、フランスではコリーヌ・ディアクルさんが女性監督として男子プロリーグ2部のクレルモン・フットを3シーズン指揮されました。現在はフランス女子代表を指揮されていますが、何か情報をお持ちなのでは?

直接話をしたことはありません。ただ聞いた話によると、現役時代はフランス女子代表選手として121キャップもあるレジェンド的選手だったのに、女子代表監督に就任された時は全く女子サッカーのことを知らなかったらしいです。

でも2部とはいえ、男子プロリーグで最優秀監督賞を受賞するのも納得の斬新な練習や考え方をお持ちです。面白いし、凄いことをしている監督さんですね!

なぜ2部の古巣シーガルズに復帰したのか?

1976年に設立した「横須賀シーガルズFC」は、大野忍や近賀ゆかり、矢野喬子といったドイツW杯優勝メンバーを3人も輩出した小中学年代の育成に長けたクラブだった。

そんなクラブが2013年2月、Jリーグの横浜FCを運営する関連法人である一般社団法人横浜FCスポーツクラブと業務提携を締結。横須賀シーガルズの女子トップチームは、なでしこリーグ入りを目指し「横浜FCシーガルズ」へと名称を変更。2016年からなでしこリーグ2部に昇格し、現在は2部で3年目のシーズンを戦っている。

ちなみに大滝が在籍していた中学時代は逗子の米軍基地で練習をしており、外国人チームとのトレーニングマッチも多かったという。国際的な感覚を持ち始めた原点でもある。

――色んな経験をされて古巣シーガルズへ復帰されました。大滝選手が所属していた中学・高校時代から考えると大きく進化しているチームだと思います。

まず、日本に帰って来るならシーガルズしかない、と考えていました。

以前に私がいた頃には、練習も小学校や中学校でやっていました。今は人工芝のグラウンドができたりして環境が良くなってきています。

でも、トップチームと育成のチームの交流がもうちょっとあっても良いのかな?と思っていて、そういう機会を増やしていきたいと思っています。

――環境面の改善を現役選手が自ら主張することを重要視されていますね。現役復帰を決意されたのは、「現役選手の立場から発信するため」でもあるのですか?

それもありますね!選手たち自身が自ら行動しないと、なかなか変わって来ないのが今の女子サッカーの現状だと思います。

だから、自分たちでできることは自分たちでやっていこうと思います。どういうことができるか?ユースチームと一緒に何かできないか?などもそのひとつで、それは常に考えています。

2023年、女子W杯を日本に!

3月21日に開幕した日本国内最高峰の女子サッカーリーグ=『2018プレナスなでしこリーグ』。今季からなでしこリーグ1部の試合に関しては、オランダ・アムステルダムの企業『mycujoo(マイクジュー)』社とのパートナーシップ締結により、リーグの公式HPで試合映像が無料配信されている。

この『mycujoo』社との提携に関わったのは、『FIFAマスター』で大滝と同期だった辻翔子さん。現在は同社に入社し、ピッチ外から日本の女子サッカーを支えている。実は早稲田大学時代の1年先輩であり、親友でもある。

――『FIFAマスター』で同期だった辻翔子さんが『mycujoo』社に入社され、なでしこリーグの映像配信にも携わられています。直近では北信越リーグの配信も決定しました。大滝選手も少なからず関わっていらっしゃるのですか?

いえ、私は関わってはいません。ただ、翔子さんとはよくコンタクトをとっています。

あの2011年の女子W杯ドイツ大会優勝を上手く活かせる人材が日本にいなかったように感じます。せっかく起きた女子サッカーブームを継続的な文化にできるようなスポーツマネジメントができる人材が、日本にはまだまだ少ないと思います。

そういう意味では、女子サッカー選手が引退後に指導者になるのももちろんなのですが、そういうマネジメント側に行けるようになったら良いな、と思っています。

――ピッチ外では2023年の女子W杯を日本へ招致するのが目標になるのでしょうか?

私がそこに関わるかはまだ分からないですが、それが目標になりますね。

――現在の日本の女子サッカーについてはどんな考えをお持ちでしょうか?例えば、せっかく小学校でサッカーを始めても、中学年代のプレー環境が乏しいという問題もあります。

今の私が育成年代に対してできることは限られています。今の自分が関わっているなでしこリーグに、どうやったらもっとお客さんを呼べるか?クラブがどうやったら収入を増やせるか?そういうことが今の私に考えられることだと思います。

まず、より多くの人に知ってもらう。そして、スタジアムに来てもらう。そうでないと放映権(料)もとれないので。もっと色んな人が『観に行きたい』と思えるようなリーグ作りを、プロモーションやSNSを駆使してもっと選手自らができることを少しずつやっていかないといけません。

『できることは少ない』と思っても、意外とできることはあるはずだと思います。

――それでは最後に今後の目標について、ピッチ内とピッチ外別々にお聞かせください。

ピッチ内ではまず、何としてもチームが今年なでしこリーグ1部に昇格できるようにしたいと考えています。その中で個人としては2020年の東京五輪を見据えて結果を出し続けていきたいと思います。

そしてピッチ外では、まだまだ今の自分に何ができるかは分からないですけれど、もっと女子サッカーを盛り上げられるように1日1日を過ごしていきたいと思います。

現役選手としての立場で、周囲の選手を巻き込んでできるので、1人でも多くの人にスタジアムへ来てもらえるように色んな仕掛けをしていきたいと考えています。

――本日は試合直後でお忙しいところ、ありがとうございました。

【プロフィール】 名前:大滝 麻未(おおたき あみ)

ニックネーム:あみ、PON会長

生年月日:1989年7月28日(28歳)

出身:神奈川県平塚市 身長:172cm 体重:60kg

所属チーム: 横須賀シーガルズ→早稲田大学ア式蹴球部女子→オリンピック・リヨン(2012.1-2013.6-)→浦和レッドダイヤモンズレディース(2013.6-2014.11)→EAギャンガン(2014.12-2015.5)で1度、現役引退。パリFC(2017.8-2018.1)→ニッパツ横浜FCシーガルズ(2018.1-)

ポジション:FW 背番号:30

なでしこリーグ通算(1・2部):22試合出場4得点

フランスリーグ1部通算:27試合15得点

日本代表歴:なでしこジャパン通算3試合出場0得点

ちょっぴり自慢したいこと:早起きが得意

話せる言語:日本語・英語・フランス語

筆者名:hirobrown

創設当初からのJリーグファンで、各種媒体に寄稿するサッカーライター。好きなクラブはアーセナル。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。中学・高校時代にサッカー部に所属。中学時はトレセンに選出される。その後は競技者としては離れていたが、サッカー観戦は欠かさない 。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。

Twitter:@hirobrownmiki

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