【ベトナム鉄鋼業レポート(中)】取り残された国営ミル

増強進まず民営に後れ

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 能力拡大が続くベトナム鉄鋼業界で、時が止まったように静かな名門メーカーがある。国営企業のベトナム・スチール(VNスチール)だ。

 元はベトナム鉄鋼公社(VSC)の名で、今も手広く事業展開や出資をしているVNスチールは、以前は同国を代表する鉄鋼企業だった。

 2002年には同国初の冷延事業、フーミ・フラット・スチール(PFS)を設立。イタリアの製鉄プラント会社、ダニエリから冷延ミル2基を導入し05年から操業をスタートさせた。日本の高炉メーカーとは当時から熱延コイルの取引関係を築き今に至っている。

 しかしPFSの年産能力は発足当初と同じ40万トンのまま。実際の生産量は30万トンで、このうち70%は亜鉛めっき鋼板(GI)メーカーへ原板として販売し、15%は日系商社などの越コイルセンター向け。残る15%を輸出しているという。

 ベトナム鉄鋼連盟によると、昨年の冷延鋼板の国内生産量は383万トン。新日鉄住金や台湾・中国鋼鉄(CSC)などの合弁事業、CSVCや、ポスコ・ベトナムといった外資系、そしてホア・セン・グループやトン・ドン・ア(TDA)といった地場の民営企業がこぞって冷延事業へ進出したため、PFSの生産シェアは1割にも満たない状態だ。

 冷延を原板に表面処理鋼板を造るリロール事業でも、VNスチールのシェアは小さい。越建材薄板市場のパイオニアで、住友商事などとの合弁事業、サザン・スチール・シート(SSSC)は健闘しているものの、VNスチールの出資は45%で、社長も住商から派遣されている。

 VNスチールが主導する越北部での亜鉛めっき鋼板とカラー鋼板の事業会社、タンロン・コーテッド・シーツは昨夏に増強したものの生産量は7万トン程度にすぎない。年間200数十万トンとされる国内の表面処理鋼板市場で得ているシェアは3%程度と見られる。

 条鋼建材も民営の影に埋没しがちだ。ダニエリ製の電炉プラントを導入し06年に稼働したビレットや棒鋼などを造るサザン・スチール(SSC)は今も月間5万トン強を生産している。ただ小型高炉を導入し増産してきた民営のホア・ファット・グループには及ばない。

容易でない民営化

 PFSやSSCの稼働時期が近いことから示されるように、一時はVNスチールがベトナム鉄鋼業を先導しようと動いていた。それが2010年代に入ると、主役の座を完全に奪われていく。

 越鉄鋼業関係者は「複合的な要因がある」とした上で、一つに環境汚染を十分防げなかったことを挙げる。技術や資金に欠け、環境対策を進めるだけの力がなく、国や外部から支援を得ることもできなかった。その間に資金力ある民営や外資系の躍進を許すことになったという。

 国営企業ながら政府の有力者とどこかで関係が薄れ、振興対象から外された。民営のように銀行借り入れで積極投資するだけの機動力もなかった。その結果が今のVNスチールの姿のようだ。

 そのVNスチールは20年までの完全民営化が計画され、昨年からは日本や韓国など海外での投資家にも説明が始まっている。しかし事業の中途半端さは否めず、VSC時代の名残で多くの合弁事業で少数株ばかりを持つVNスチールが果たしてどう評価されるのか。民営企業と同じスタートラインに立つための道のりは遠い。(ホーチミンシティ発=黒澤広之)