【CH鋼線メーカー、現状と展望1】〈杉田製線〉ワイヤー製品6000種以上を製造 冷間圧造への移行ニーズ捕捉

 線材製品協会・CH(冷間圧造用)鋼線部会は前身組織だったCH懇談会とCH輸出協力会が1978年に組織され、今年で設立40周年を迎える。日本のCH鋼線の品質は世界でもトップクラスだ。CH鋼線メーカー各社は日本の産業界の発展とともに技術革新を進め、自動車や建機、工作・産業機械などさまざまな分野へ部品材料の供給を通じて、日本のものづくり産業を支えてきた。本紙では同部会に所属する関東、関西、中部の正会員メーカー各社を取り上げて、現状と今後の展望を聞く。

 杉田製線は創業100年を超える総合伸線メーカー。創業時は荷札用のナマシ線や釘などを製造していたが、戦後は自動車などの産業界の発展にあわせて、CH鋼線やばね用鋼線の製造にシフト。今や製造するワイヤー品種は、太径から細径まで6千品種以上、生産量も年10万トン超と、日本を代表するCH鋼線メーカーへと飛躍を遂げた。

 向け先は自動車関連向けがおよそ8割と大半を占める。自動車業界は、電気自動車(EV)の普及や自動運転技術の進歩など、産業構造が大きく変革する局面を迎えている。内燃機関(エンジン)がなくなることで需要は減少するとみられていたが、「足元の自動車関連向けの需要は、予想に反して増えている」(杉田社長)。

 90年代には道路整備計画に伴い、本社東京工場の立体化、倉庫の自動化など工場レイアウトの再構築という難題にも直面したが、自動酸洗設備をはじめとした環境配慮型設備の導入と工場の近代化を進めて、都市型伸線工場へと生まれ変わった。

 市川工場は、海上運送される線材の直接入荷が可能であり、広大な敷地に大型伸線設備、大型熱処理設備を導入。精密な伸線加工を行う本社東京工場と相互に補完する。また自動車メーカーや部品メーカーの海外進出に伴い、中国の江蘇省と広東省に海外合弁も設立。現地生産と輸出を通じて、国内外の自動車メーカー、部品メーカーにCHワイヤーを供給する。

 同社では2013年に独自の生産管理システム「POCS」を導入した。顧客ニーズに合致した高品質な製品を製造するため、主要な工程だけでも60を超える工程設定を管理する。正確な工程設計とシステム管理でコントロールされたワイヤー製品は、中間検査や製品検査など各工程で多数の品質検査を経て、安定した高い品質のワイヤー製品をユーザーに適正コストで供給する体制を構築している。

 環境対策、地域貢献活動も推進。環境対策は熱処理設備の省エネ化や、廃硫酸を再利用した凝集剤のポリ硫酸鉄溶液「ポリテツ」の開発、太陽光発電システムの導入。地域貢献としては、工場内の剣道場を墨田区剣道連盟に練習用として開放するなど、地元市民との共存共栄の関係を築いている。

 杉田社長は「自動車メーカーからのコスト削減要請はこの先もさらに加速するだろう」と予想する。部品の製造方法も切削加工から歩留まりに優れるスクラップレスやチップレスの冷間圧造加工に移行する部品が増えるためだ。

 「ユーザーとともに、どのような鋼種の線材を使ってCH鋼線を製造するかの開発、研究に力を入れている。新しい需要を常に捕捉して製造品種を増やしていったのは当社の歴史でもある。今後も鋼種、製品数はさらに増え続けるだろう」(このシリーズは不定期で掲載します)(伊藤 健)

 会社データ

 ▽本社所在地=東京都墨田区東墨田

 ▽代表者=杉田光一

 ▽資本金=2億2040万円

 ▽売上高=161億円(2017年1月期)

 ▽拠点=本社東京工場、市川工場

 ▽年間生産量=10万トン

 ▽従業員=360人

 ▽主要品種=冷間圧造用鋼線、ばね用鋼線、ファイバー、化成品

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