【JX金属の伸銅品戦略】〈百野修執行役員(機能材料事業部長)に聞く〉自動運転など電子部品向け需要増 大型投資で薄物ニーズ捕捉

 携帯機器や自動車向けの需要を追い風に現在の伸銅品需要は旺盛。今後は自動運転やIoT(モノのインターネット)など技術の革新により銅板条・銅箔を用いる電子部品が増え、ニーズはさらに拡大する見通しだ。JX金属では市場の変化を先取りした大型投資で事業の成長を目指す。伸銅品などの事業を統括する機能材料事業部長の百野修執行役員に今後の戦略を聞いた。(古瀬 唯)

――まずは今期の需要環境から。

 「我々の材料が使われるスマートフォンなどのモバイル機器は小型化・高性能化が進み、より薄い伸銅品が求められているため重量以上に面積が増えている。今期特に拡大が見込まれるのは圧延銅箔。増設した圧延機が17年度下期からフル稼働したため、旺盛なFPCなどの需要をさらに取り込めるようになった。またチタン銅条やコルソン合金条、りん青銅条も薄物が増える。今期の伸銅品の販売目標は月間3950トンで重さでは8%の増だが、長さでは約30%は増やしたい」

JX金属・百野執行役員

――コルソン合金条やチタン銅条の状況については。

 「コルソン合金条は高い強度と導電率を両立させていることが特徴。モバイル機器の高性能化に伴い部材に流す電流量が増えている。高い強度で薄型化の要請に応えながら、優れた導電性で電流量の増加に対応して伸ばす。非常に高強度で微細加工が可能なチタン銅条は、より小さな部品を求めるモバイル機器のニーズを取り込み供給を拡大。りん青銅条は供給可能なメーカーが比較的多い黄銅条の製造絞り込みや、生産性向上などで製造キャパの広げて増やす」

――中長期的な市場についてはどのような見方を。

 「現在の領域については堅調な需要が続くだろう。モバイル機器の形は変わるかも知れないが、インターネットを利用するための端末はなくならない。台数の伸びは頭打ちになってくる可能性はあるが、端末の機能が充実してくるので伸銅品を使う電子部品の1台当たりの搭載量は増えると思う」

――技術の発展を受けて新市場が生まれる可能性も。

 「例えば自動車の自動運転化では情報通信網との連携やカメラやセンサの搭載増などを受けてモバイル機器と同じ部材が増えてくるため当社の材料にチャンスがある。あらゆるものがインターネットに接続されるIoTでもセンサやカメラが増えるほか、収集した情報を処理するデータセンターでも我々の材料の出番がある。新たな市場でも軽量化・小型化のニーズがあり、求められるのは薄物だと思う。だから量ではなく長さや面積を追っていく」

――需要増に対応するための施策は。

 「倉見工場の銅箔用圧延機や日立事業所の表面処理設備など薄物の増産に対応するべく下工程をさらに増強する。ただ、現在ほどんどの設備がフル稼働なので、薄物増産には上工程の強化も必要。そのため倉見の鋳造炉や冷間圧延機、連続焼鈍ラインも増設しなければならない。圧延銅箔だけでなくコルソン合金条やチタン銅条、りん青銅条の薄物も増産する。20年度上期にはすべての増設設備をフル稼働させ、能力を面積ベースで現行の3割増にする。一連の投資に合わせ人員も100人単位で増やす。また磯原工場の半導体用スパッタリングターゲットもIoTなどで需要が増えるので大幅に増強する」

 「圧延銅箔・高性能銅合金条は、投資をするからには販売も3割は拡大させる。圧延銅箔は技術や製品の変化で毎年新たな仕様が求められる。当社は溶解鋳造から表面処理まで一貫する生産体制があるので、各工程での工夫を組み合わせ、顧客の仕様に迅速かつ細やかに対応できる。その強みも生かしつつ供給を拡大したい。また将来的に、さらに多く当社の材料が求められる状況になれば今回の増産投資をてこにした拡大再生産も考えなければならない」

――プレス・めっきや電解銅箔の事業の状況については。

 「プレス・めっき事業のJX金属プレシジョンテクノロジー社は生産が忙しくなってきた。主力拠点の掛川工場は自動車向けの製品が中心で現在はフル操業に近い状態になっている。今後は低摩擦錫めっきのマイクロ・ティンや倉見工場の圧延品とセットにした提案などで自動車・電子機器向けのニーズを取り込みながら年率5%程度のペースで売り上げを高める。電解銅箔は汎用品からすでに撤退しており今後はFPC向けの特殊な製品を中心にしていきたい」

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