米南部「全裸乱射犯」に銃が渡った理由

By 太田清

逮捕されたラインキング容疑者。ナッシュビルの警察のツイッターから

 米南部テネシー州ナッシュビル近郊のレストランチェーン「ワッフル・ハウス」前で22日未明、近くに止めたピックアップトラックから男が出てきていきなり銃を乱射、店の前にいた2人を殺害、さらに店内に入り2人を殺害した。CNNテレビなど米主要メディアが伝えた。 男はなぜか、緑色のジャケットをはおっただけの、ほぼ全裸姿。男が弾を撃ち尽くし弾装を入れ替えようとしたところ、トイレに隠れていた客の黒人男性が飛びかかり、銃を奪ったため、男は逃走したが、男性の勇気ある行動がなければ、被害はさらに拡大していただろう。 

 男はイリノイ州出身のトラビス・ラインキング容疑者(29)で最近、ナッシュビルに転居。銃を持って逃走したため、警察は周辺住民に家の鍵をかけて外に出ないよう警戒を呼び掛け、関係先を捜索。事件発生から約35時間後に、ナッシュビルの自宅近くにいたところを見つけ逮捕した。警察はなぜ全裸姿だったのかなどを含め、動機を調べている。 

 実は、ラインキング容疑者には昨年7月、「トランプ大統領と会いたい」などとして首都ワシントンのホワイトハウス近くの立ち入り制限区域に侵入して逮捕された犯行歴があった。社会奉仕活動に従事したため起訴は取り下げられたが、銃の所持許可は剥奪され、当時所有していた4丁の銃は没収された。イリノイ州テイズウェル郡の警察当局は没収した銃を、ラインキング容疑者の父親に預け、同容疑者には返さないよう注意したが、父親はその後、銃を息子に渡してしまった。 

 父親が渡した銃には、ラインキング容疑者が犯行に使用した殺傷能力の高いライフル銃も含まれていた。父親は今後、銃所持が禁止された人物に銃を渡した罪で訴追される可能性があるという。 

 事件に当たった連邦捜査局(FBI)は、イリノイ州の警察当局の対応に問題はなかったと主張しているが、いくら銃を取り上げたところで、銃そのものが存在している限り、犯罪を起こす人間に渡ってしまう恐れは残る。殺害された4人は客とレストランの従業員で20~29歳。事件は前途ある若者の命が、簡単に奪われてしまう銃社会の矛盾を再び浮かび上がらせた。 (共同通信=太田清)

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