LMEアルミ市況、乱高下で7年ぶり急騰も、一転勢い落ちる 国内流通は先高観続く

 米国の対ロシア制裁をきっかけに、アルミ市場は4月上旬から大混乱に陥った。ロンドン金属取引所(LME)アルミ先物価格は現地6日まで1900ドル台後半で動意に乏しく推移していたが、9日に急上昇。その後も続騰し、19日には約7年ぶり高値となる2500ドルを突破。カーブ(場外)取引では一時2700ドル台を付け、上昇幅は過去最高の4割に迫った。だが、足元では2200ドル台まで値下がりするなど一転して市場は落ち着きを取り戻し始めている。乱高下の要因や流通筋の反応、5月の連休明け後の市況見通しについてまとめた。

 上昇のきっかけとなったのは米国の対ロシア制裁。4月6日、米国はアルミ生産大手・露UCルサール社(以下、ルサール)のアルミ製品に対し、LMEやCOMEX(シカゴ・マーカンタイル取引所)での取引を禁止した。世界のアルミ新地金生産量約6500万トンのうち、ルサール産地金は約7%(約450万トン)を占め、その約2割を米国向けに販売している。ある関係筋は「米国内でのドルベースの取引はできないが、ユーロやスイスフラン、香港ドルによる取引なら売買は可能。だが、米国からの圧力や追加制裁を恐れて欧州でも同社産塊の取引を避ける動きが生じた」と明かす。

 このまま制裁が続けば、行き場を失くしたアルミ地金がヤードに積み上がり、ルサールとしても生産削減計画を打ち出さざるをえない状況となった。みずほ銀行デリバティブ営業部調査役の吉田朋哉氏は「上海株が1年ぶりの安値に沈む中での急騰。ルサールのシェアを考えれば市場へのインパクトは相当大きい。次のターゲットを2800ドルとし、3千ドルへの視野に入れると予想する向きも少なくなかった」と話す。

 しかし、足元では米国がルサール社社長のオレグ・デリパスカ氏の辞任を条件とした制裁緩和を示唆し、スイスの資源大手グレンコアがルサール産品の供給を開始したとの報道が広がるなど、一気に下落局面に転換。吉田氏も「依然として半値戻しの水準にとどまるが、上値を試すトレンドはある程度解消された」とみる。

 国内流通業界でも一連の乱高下に対して混乱が起きている。アルミ圧延品の店売りマーケットでは先安とみられていた7月以降の市況の見方に変化が起きた。店売りアルミ圧延品価格の基準となる国内大口ヒモ付きアルミ地金の4~6月積み価格はキロ当たり300円となっているため、足元の市況に大きな変化はない。しかし、アルミ地金の国内スポット価格が一時330円台まで急騰したことを受けて「先月時点で〝20円下落の280円〟程度とみていた7~9月積み価格は〝横ばいで300円〟まで盛り返してくる可能性がある」(問屋筋)との声も散見。先安ムードは後退し、一部圧延メーカーが6月に加工賃値上げに踏み切ることも合わせ、市況は先高ムードをまといつつある。

 また、自動車向けアルミダイカスト(AD12種)を供給するアルミ二次合金メーカーの幹部筋からは当初、5月初めに改定する4月積み販価格について「3月後半の原料費下落を考慮し、下げの向きもある」としていたが、今回の上昇を考慮して「限定的ながらも値上げ改定となろう」と観測。「アルミスクラップ原料については在庫が潤沢にある。買値については連休明け、7日の外電を見て設定したい」。

 今後の展望に関しては、ルサールの企業再編などの可能性が噂されているものの、同社株の48%を保有するデリパスカ氏の進退が不透明なことから、再び上昇に向かう可能性も否定できないもようだ。 (佐藤 創太)

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