「見守ってくれる」 溶け込み築く良い距離感 「U30のコンパス+」第1部 移住の先に(3)佐島後編

 2年前に初めて訪れるまで佐島と縁がなかった鈴木彩美(すずき・あやみ)さん(30)と武田由梨(たけだ・ゆり)さん(30)。どのように溶け込み、暮らしを築いていったのか。2人に聞いた。

※前編「女2人、瀬戸内の島に 自然体が気持ちいい」はこちら↓

 ―鈴木さんはすぐに島の生活に慣れたというが、武田さんは少し時間がかかったという。人付き合いで難しいと感じたことは。

 武田 私は人見知りなので、今まで住んでいた街より人との距離が近いなと感じたことがありました。でも島の人とあいさつや会話をするうちにお互いのことが分かってきて、私が夜遅いバイトから帰って寝ていても、起こさないように玄関に野菜を置いていっていくれます。今ではその距離の近さを心地よく思えるようになりました。

鈴木さんが初めて佐島を訪れた時に滞在したゲストハウスと管理人の富田桂子(とみた・けいこ)さん親子

 ―島の人との会話で戸惑うことは

 武田 私が東京に出かけて戻ると「東京に帰っちゃったのかと思ったよ」と声を掛けられることがありました。最初は「やっぱり都会がいいのか」と勘違いされたかなと気にすることもあったけど、やりとりするうちに深い意味はなくて、心配して見守ってくれているんだと感じるようになりました。

 ―島の人と仲良くなるコツは。

 武田 あいさつしたり、感謝の気持ちを伝えたり当たり前のことをすること。おかずづくりは島のお母さんたちにかなわないから、お裾分けのお返しにお菓子を作って持って行きました。
 ―島の人の接し方に変化は。

 鈴木 移住準備のとき、役場の人は私たちが本当に来るのか半信半疑のようでしたが、何度か通ううちに本気だと伝わったのか、地元の人を紹介してくれたり、方言交じりで話しかけたりしてくれるようになりました。

 武田 あと、人づてに向かいのおばあちゃんが「空き家に人が住むようになり、毎日電気がつくようになって良かった」と言ってくれていると聞いて私たちもうれしくなりました。

 周囲の人の受け止めはどうだったのか。隣の弓削島出身で、2人と同年代の娘がいる近所の主婦、前川緑(まえかわ・みどり)さん(56)は「よそ者意識はない」と話す。

佐島

 ―移住者はよそ者扱いされないか。

 「10年前ならあったかもしれないけど、今は移住の話もよく聞くし、私の世代はよそ者という意識はないですね。若い人が来てくれるのはありがたい。少子高齢化で空き家も増えているし、おみこしの担ぎ手も足りなくて」

 ―島の人とどうしたら仲良くなれるか

 「2人とも散歩で会うとちゃんとあいさつしてくれて、それがきっかけで話すように。島のことが分からないから行事とか教えてあげています」

 ―島は人付き合いが密と聞く

 「島が小さ過ぎて悪いうわさも広まるから嫌という人もいます。私が嫁いできたときも『どこの嫁だ』と注目の的でした。中には人付き合いにうまく対応できなくて島を離れる人もいます。2人が来たときも島の人は気になったみたいで、私に『あの子ら移住してきたん?』って聞いてくる人がいましたよ」

 ―移住者がきて変わったことは

 「同級生はみんな都会に出てしまって、地元に残るのがはずかしいという感覚がありました。住みたいという人がいると島も良いとこなのかなと。鈴木さんが撮る島の写真がきれいで、見慣れた海を見る目も変わりました」

 佐島のゲストハウスの管理人で、2年前に幼い子ども2人を連れて愛媛県伊予市から移住した富田桂子(とみた・けいこ)さん(36)にも聞いた。

 ―鈴木さん、武田さんと島の人のやりとりをどう見ているか。

 「2人が島の人の親切を喜んだり、困ったときに頼ってくれたりするのは島の人からしたらうれしいと思う」

 ―子育ては島でしたいと。

 「離婚して自分で稼がなきゃとなった時に、街中の高い家賃を払うために仕事して、子どもと一緒にいられる時間もなくなっていました。もともと旅が好きで、ゲストハウスを開きたかったのを思い出して。一人での子育てだと話もゆっくり聞いてあげられないけど、ここには見てくれる大人がいるから、私も子どもも心に余裕が持てます」

 ―子どもへの影響は。

「子どもは順応が早い。今では私より危なくない毛虫の種類とか知っています。人見知りもしなくなりました」

瀬戸内しまなみ海道や愛媛県今治市を結ぶ船が発着する佐島港

 愛媛県上島町役場の担当者に、移住を巡る町の現状を聞いた。

 ―町の移住促進について。

 「農林水産課が担当し、農業や漁業に就労してくれる人をメインにやっている。町に滞在して就業体験するプログラムがある」

 ―成果は。

 「家賃助成や就職奨励金もあるが、想定より制度利用者が少ない。2017年度までの10年で就業体験した100人中、定住したのは15人だった」

 ―住むところはあるのか。

 「空き家はあるが、住んでいた人の荷物があったり、夏の間だけ島の外から帰省したり、貸せる状態の家は多くない」

 ―仕事は。

 「造船所があり求人も出ているが、移住してくる人は農業がやりたいと言って条件が合わないこともある」

 ―農業を仕事にできるのか。

 「島では大規模な耕作地を確保できないため、農業で自立するのは簡単ではない。段々畑のかんきつ類が有名だが、斜面なので体力も必要だ」

 ―課題は。

 「まずは働き口。NPOや第三セクターも一緒になって特産品のレモン栽培を強化し、販路拡大やジャムなど加工品も売っている。あとは交通の利便性。島同士をつなぐ橋を建設している」

佐島を出港する船を見送る鈴木彩美(すずき・あやみ)さん(左)と武田由梨さ ん

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