人命も奪う金正恩氏の「ダークサイド」に気をつけろ

北朝鮮の金正恩党委員長の次の出方に、世界の耳目が集まっている。韓国の文在寅大統領、米国のポンペオCIA長官(現国務長官)との対話で「非核化」に言及した彼の真意について、懐疑的に見る向きは少なくない。

それでも、昨年と比べれば状況が大きく変化したことは否めない。朝鮮半島の軍事情勢が、再び悪化することを本気で心配している人は少ないのではないだろうか。

人体を「ミンチ」に

だが、ここでハッキリと認識しておくべきなのは、われわれはまだ、金正恩氏がどういう人物であるのか、わかっているわけではないということだ。父親の金正日総書記もそうだったが、豪胆さとユーモアを兼ね備えたキャラクターには従前の評判を払いのけ、会う人を引きつける力がある。

しかし、それが金正恩氏のすべてではない。彼には南北首脳会談で見せた明るい表情とは別の、「ダークサイド」が間違いなくある。そしてそれは、文字通り人間の命を奪ってしまうほど殺伐としたものだ。

北朝鮮における人権侵害は、彼の祖父である金日成主席の時代から続いてきたものだ。2代目の金正日氏は、権力を支える恐怖政治とセットでその罪を継承し、自らの手も血で汚した。

金正恩氏には、そのような過去と決別するチャンスがあったかもしれないが、結果的にそうはならなかった。彼も、父親と同じ道を辿ったのだ。

金正恩時代になって粛清・処刑された人物として、最も有名なのは彼の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長だろう。ただ彼の場合、曲がりなりにも特別軍事裁判にかけられ、その結果として国家転覆陰謀罪により死刑判決が下されている。そのプロセスが公正なものであったとは思えないが、検証が必要な部分ではある。

一方、2015年4月に処刑されたとする玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)元人民武力部長については、北朝鮮は処刑の事実を今なお認めておらず、裁判が開かれたかもわかっていない。伝えられているところでは、玄氏の処刑理由は、金正恩氏の指示に何度か従わなかったとか、軍の大会で居眠りしたとか、そのようなことだ。

しかも、処刑においては大口径の高射銃を使って「ミンチ」にし、その様子を幹部たちに見せたという。

これがすべて事実だとしたら、われわれは金正恩氏の人格をどのように判断し、どのような付き合い方をすべきなのだろうか。アジアの平和は、非核化だけで実現するわけではない。隣人の本当の姿がどのようなものなのか、もっとよく知っておく必要があるだろう。

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