【大学野球】プラスに捉える甲子園優勝投手の肩書き 昨夏V投手が大学で踏み出した一歩

東北福祉大・綱脇慧【写真:高橋昌江】

昨夏優勝・花咲徳栄の綱脇が東北大戦でリーグデビュー

 昨夏の甲子園優勝投手である東北福祉大の綱脇慧投手(1年・花咲徳栄)が、30日の東北大との2回戦でリーグ戦デビューを果たした。初登板初先発で3イニングを投げ、1安打無失点。大舞台を経験してきた右腕は「楽しめた」と振り返った。試合は7-0の7回コールドで東北福祉大が勝利した。

 最速141キロの直球にスライダー、カーブを織り交ぜ、淡々と打者を打ち取っていった。3イニング、打者10人に投げ、奪った三振は1つ。許した安打は3回2死からの内野安打のみだった。綱脇は「あっという間に終わりました」と汗をぬぐい、「真っ直ぐは走りが良かった。次、投げることがあれば、変化球を修正したい」と課題を口にした。大塚光二監督(元西武)は「先発投手をあと1、2人、作っておかないと」と、リーグ戦の終盤、そしてその先の全国舞台を見据えて綱脇を起用。2回に2死から与えた四球に「あれはいらない。綱脇の良さはコントロール。まだまだ」と厳しいが、「それくらいのことを言ってもいいピッチャーだと思っている」という期待の表れだ。

 8か月前は花咲徳栄の2枚看板の1人として、4万人を超す大観衆の中心にいた。昨夏の甲子園。背番号は10番だったが全6試合に先発し、中日入りした清水達也投手につなぐ「勝利の方程式」で初優勝に貢献。プロ志望届を出したが指名はなく、花咲徳栄・岩井隆監督の母校である東北福祉大に進学した。3月には青山学院大、ホンダ、鷺宮製作所とのオープン戦に登板。失点を喫したが、ここでの反省を生かし、力まずに腕を振って投げることを意識。紅白戦で結果を出し、2日前にこの日の先発を告げられた。「やったー! と思いました」という綱脇。地方のリーグとあって観衆は多くないが、「先輩も声をかけてくれて、すごく楽しい雰囲気です。岩井監督から電話で『楽しんでこい』と言われ、楽しめました」と笑顔を見せた。

 甲子園優勝投手――。それが人生の重い十字架になる場合もあるが、綱脇は「そう見てもらえた方が気合いが入る。優勝したことをプラスに考えている」と頼もしい。また、相手を下に見ているわけではなく、自分を奮い立たせるために「甲子園の経験があるので、心の中では投げながら『打たれないだろう』と思っている」と語る。甲子園優勝投手の肩書きは、強気な攻めの姿勢を生んでいる。

三浦、佐川、椋木らと切磋琢磨「みんなプロに行ける可能性がある」

 切磋琢磨できる同級生の存在も心強い。この日、綱脇の後を受け、4回の1イニングを投げたのが三浦瑞樹投手。盛岡大付を3季連続で甲子園出場に導き、昨年は春夏連続で8強入り。大学に入り、最速が3キロアップした直球を中心に1安打無失点で、こちらもリーグデビューを果たした。5回から登板した椋木蓮投手(高川学園)はこの日で6試合目の登板。やはり高校時代から球速が5キロ伸び、サイドハンドから最速147キロを繰り出す。リーグ戦では最長となる3イニングを2安打無失点で切り抜けた。

 また、この日の登板はなかったが、佐川光明投手(仙台育英)も強いストレートを武器にすでに2試合に登板している。「みんな仲がいいのでライバルという感じではない」と綱脇。野手は1つのポジションに1人が固定される場合が多いが、大塚監督から「ピッチャーはみんな良かったら、みんなプロに行ける可能性がある」と話されたと言う。互いに高め合い、ともに夢を追う仲間だ。その大塚監督は「綱脇、佐川、三浦は大舞台を経験して肝も座っている。その経験値はお金では買えないこと。(椋木も含め)4人ともいいピッチャーなので、経験を積ませながら大事に大きく育てたい」と話した。

 東北福祉大は昨秋、2014年春のプレーオフを除いて75季ぶりの3位に沈んだ。大学選手権で優勝2回、明治神宮大会でも5度の決勝進出を果たし、阪神・金本知憲監督や“大魔神”こと佐々木主浩氏(現野球解説者)、斎藤隆氏(現パドレス球団アドバイザー)ら、これまで48人のプロ野球選手を輩出した名門にとっては厳しい現実だった。その悔しさを味わい、一冬を越えた上級生と勢いのあるルーキーたちが力を合わせ、2季ぶり69度目のリーグ優勝に向かっている。「先輩たちは全国大会に行くという強い気持ちを持っている。自分たち1年生も同じ思い。チームの力になれるように頑張っていきたい」と誓った綱脇。舞台を大学野球に移し、第一歩を踏み出した。

(Full-Count編集部)

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