<再ブレーク盤> 神野美伽『夢のカタチ』 1曲目、幻想的な『リンゴ追分』から引き込まれる

神野美伽『夢のカタチ』

 デビュー35周年記念盤。近年は、国内外のフェスやジャズLIVEへの出演など演歌以外でも活躍が目覚ましく、本作はそれらの集大成と言える意欲作だ。

 1曲目『リンゴ追分』から引き込まれる。大江千里による洒落た演奏や、ジャニス・シーゲルのスキャットに合わせた神野の妖しげな歌声の効果で、“追分”がまるで異次元のように幻想的に映る。

 また、ラテン風でにぎやかな『奴さん』や、フェスさながらに力強い『切手のないおくりもの』などでは原曲以上に陽気に聴かせる。他方、むせび泣くベースの演奏に合わせ、緩急をつけて熱唱する『迷惑でしょうが…』ではしんみり聴かせる。

 さらにオリジナル曲も魅力的。刹那な状況での一途な想いをつづった演歌の『千年の恋歌』や『道ならぬ恋』では純和風に切なく歌う一方で、クラシックの小原孝が書き下ろした『私のバラード』では、しっとりと美しく、同じ歌い手とは思えぬほどだ。

 ラストは、『歌は我が命』のカバーで、美空ひばりワールドこそが、神野が目指す方向だと納得した。本作を聴けば、自分の可能性のため、より視野を広げたいと思うはず。

(キング・2870円+税)=臼井孝

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