イコモスとの「対話」成功 県、文化庁 問題点の指摘少なく

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本の12資産)の世界文化遺産登録を勧告した国際記念物遺跡会議(イコモス)の評価内容には、問題点の指摘がほとんどなかった。文化庁は「内容に想定外はない」と胸を張った。同遺産はイコモスの正式な支援を受けて推薦書を作成した国内初の事例で、県や文化庁とイコモスが綿密に「対話」したことが読み取られる。
 「顕著な普遍的価値はわが国が主張していた通り」「イコモスとのやりとりの中で論点は把握していた」。4日未明に会見した文化庁の大西啓介記念物課長は言葉の端々に充足感を漂わせた。
 勧告は、潜伏キリシタン遺産を「禁教期にもかかわらず、ひそかに信仰を継続した長崎・天草の潜伏キリシタンの独特の文化的伝統の証拠」と認定。資産を脅かす要因として自然災害や人口減少、過度の来訪などを挙げたが、「日本政府は包括的保存管理計画を策定、実行している」と付記する高評価だった。
 一方、資産範囲については2点の指摘があった。「原城跡」(南島原市)は漁業施設や中学校がある南西部を除外するように指摘。「奈留島の江上集落」(五島市)は保護の対象となる「緩衝地帯」を広げ、江上天主堂の西側の陸域を含めるよう求めた。
 文化庁によると、原城跡の南西部は江戸時代の「島原・天草一揆」で幕府軍が駐屯した場所だが、イコモスは当時を示す遺構が残っていないとして除外を求めた。ただ、原城跡と江上集落の問題も指摘を受け入れることでイコモスと合意済みという。
 県に助言したのは、イコモスが公式に派遣した外国人アドバイザー。イコモスは審査の公平性を担保する観点から、アドバイザーが審査チームに参加することを認めなかった。NPO法人世界遺産アカデミー(東京)の宮澤光主任研究員は「ここまで問題点の指摘が少ない勧告は珍しい。審査チームがアドバイザーの助言を把握し、尊重したことが読み取られる」と話す。
 イコモスは「追加的勧告」として、久賀島(五島市)と野崎島(北松小値賀町)の消滅した集落などの詳細な記録を作成することや、住民らの保全活動に行政が補助する制度を周知することなど4項目を求めた。県世界遺産登録推進課は「しっかり対処する」としている。
 世界遺産に詳しい岡田保良国士舘大教授は「イコモスの指摘に従い2資産を除外するなど、助言にしっかり対応したことが高評価につながったのだろう。推薦国とイコモスの対話が成功し、よい前例になったのではないか」と話している。

イコモスの勧告を受け会見する文化庁の職員=文部科学省

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